資源開発と航路開発をめぐる競争

英国の地政学者マッキンダーが当時使った地図で描かれた北極海は、夏でも氷が解けない「凍ったままの海」だった。

この氷が解けることで「資源開発」と「航路開発」の可能性:

→ 北極海には世界の未発見の天然ガスの30%、石油の13%が眠る

→ 北極海航路を使った物流や人流が増える

それを見越して各国の軍事活動が活発。利権確保、影響力確保のための競争が激化。

北極海の支配を宣言するロシア

2013年に中国はロシアのロスネフチに資金だけでなく、技術やモノを提供して北極海の3つの鉱区の資源開発に参入。

2017年12月にはヤマルLNGのアジア向けのタンカーが北極海航路を東に出港して資源輸出が開始。

2022年7月31日、プーチン露大統領は新たな海洋戦略を発表。北極海の支配がロシアにとって最も優先順位の高い問題であることを示す。

「これらは私たちの北極海だ。私たちはこの海をあらゆる手段を用いて守る」

図1 Image: Shutterstock

気候変動で変わる北極海航路の戦略的価値

北極海を渡って東アジアと欧州を結ぶ海上輸送ルートで、マラッカ海峡、スエズ運河を経由する「南回り航路」と比較し、航行距離を約6割短縮でき、海賊リスクも少ないことから、海上輸送における新たな選択肢として注目が集まっている。

今後、北極海航路が中国にとって欧州地域との交易ルートとして重要性が高まる可能性がある。

その際、上海よりも豆満江を出発すれば3~4日短縮できるため、北極海ルートへの進出港として豆満江一帯の開発を進めることが予想される。

磯部晃一氏(第37代東部方面総監)、鈴来洋志氏(元韓国防衛駐在官)によれば、今後、東シナ海、南シナ海に続き、中国にとって日本海の重要性が高まり、安全保障面でも緊張が高まり、日本海が新たな地政学的要衝になる可能性もある。

図2 国土交通省「北極海航路の概要」に基づいて作成

NATOとロシアが睨み合う海

冷戦時代から北極海はロシア(当時はソ連)と北大西洋条約機構(NATO)が睨み合う海だった。

グリーンランドとアイスランド、そして英国の三つの陸地の間の海域は「GIUK Gap」と呼ばれ、冷戦時代にはソ連の潜水艦が大西洋に出ようとする際の出口だったため、ここを封鎖することが米英海軍の主要任務。

ロシア(ソ連)側はスヴァールバルというノルウェーの島とスカンジナビアの間の海域を「Bear Gap」としてここから東側をロシアの原潜の作戦海域とした。

北極海をめぐる国際政治

図3 Source:環境省「COOL CHOICE」

https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/weather/article04.html

2013年、米国は「北極国防戦略」を公表。

2016年、中国はアイスランドにオーロラ観測所を建設。

2017年5月、中国はグリーンランドにも人工衛星の地上局を建設。

2018年1月、中国は北極政策に関する初の白書を発表し「氷上シルクロード」の推進を宣言。

2019年8月、トランプ大統領(当時)はグリーンランドの買収に言及。

2021年5月、ブリンケン米国務長官がグリーンランドを訪問。北極海は新たな地政学的要衝として、大国間競争の舞台になっている。