安全保障の運命を握る宇宙

宇宙への依存を強める世界

現代において、通信や偵察・監視に限らず、作戦行動から情報戦に至るまで、戦争のあらゆる局面が宇宙システムに依存。今や宇宙なしに軍事作戦は機能しない。

「民生分野では、全地球測位システム(GPS)の位置情報、時刻情報に多くの社会システムが依存。航空機の管制、銀行のATM、株式市場の取引から電力網のスマートグリッドまで、宇宙からの時刻同期情報や位置情報が不可欠→宇宙を制する者が将来の世界の覇権を握る」片岡晴彦氏(第32代航空幕僚長)

宇宙は「低軌道」「中軌道」「静止軌道」と「それ以遠」に区分。地上から高度2000kmまでが「低軌道」、2000km~3万6000kmまでが「中軌道」、「静止軌道」は3万6000km前後。

人類の活動範囲は、ここからさらに月、火星へと拡大。月までの宇宙空間(シスルナ領域)は戦略的な観点からも重要性が増している。

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宇宙覇権をめぐる大国間競争

宇宙空間にも存在する「地政学的要衝」

これまでは低軌道と静止軌道の間が主な活動領域だったが、今後は地球と月の間の「シスルナ領域」と呼ばれる空間の重要性が増す。

月の周回軌道や月面を含めて、この領域には軍事的にも重要なエリアが存在する。また、月の楕円軌道は地球との通信が可能であるため、月の軌道を押さえることが今後重要。

さらに「ラグランジュポイント」と呼ばれる天体と天体の重力の均衡がとれるポイントがある。地球と月の間に1番、2番、3番、4番、5番という「ラグランジュポイント」があり、あまりエネルギーを使わずに留まっていられる領域のため、通信中継衛星を投入するのに最適。

中国はすでに2番に通信中継衛星を置き、米国は4番と5番を重要視→今後こうした領域の争奪戦が激しさを増す。

宇宙においてもシスルナ領域やラグランジュポイントのような地政学的要衝が存在し、こうした領域をめぐる競争が展開されている。宇宙や月には地球の法の支配は及ばない。先着で管轄権、管理権を取得した国が主権を持つ領域となる可能性があり、今後大国間競争はますます熾烈さを増していくだろう。

図2