古典地政学に見るロシア・ウクライナ戦争

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ランドパワーとシーパワーの衝突

古典地政学的な解釈=「ハートランド(東欧)を制するための戦いが、ウクライナにおけるランドパワー(ロシア)とシーパワー(主に米国)の衝突という形で起きている」

佐々木孝博氏(元在ロシア防衛駐在官)によれば、ロシアは地形的に平坦で侵略に脆弱なため常に国境の外側に緩衝地帯(バッファーゾーン)を置くことを狙うという。

またロシアは、リムランドにあたる地域を自国の「勢力圏」として死守すべき地域「特権的利害地域」と位置づけている。旧ソ連邦を形成した独立国家共同体(CIS)諸国が「特権的利害地域」に該当。陸上国境が存在しない場合は隣接する海洋や島々も「特権的利害地域」になり得る。

「特権的利害地域」における国益が侵されたと判断された場合、軍事力行使も辞さないのがロシアの基本方針。2008年のジョージア(グルジア)紛争、2014年のクリミア併合、そして2022年のウクライナ侵攻もこの原則に沿った行動である。

黒海への出口「アゾフ海」の支配をめぐる闘争?

長島純氏(中曽根平和研究所研究顧問・元空将)は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の目的の一つは、黒海に至る海洋の出口、その内海であるアゾフ海の支配だった可能性を指摘。米国や英国は、アゾフ海に面した、もしくは同海に近いオチャーコフやベルジャンシクの港を整備し軍事利用の準備を進めていた。

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図2 Map data ©2023 Google

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22年2月21日、プーチン大統領は、米国やNATO諸国がウクライナ国内で空港や港の近代化など将来の軍事利用のためのインフラ整備を進めていることに不快感を示した。

「米国が建設したオチャーコフの海事作戦センターは、ロシアの黒海艦隊と黒海沿岸全体のインフラに対する精密兵器の使用を含むNATO軍艦による活動の支援を可能にするものだ!」

この地域からNATOの拠点や影響力を排除することは、プーチン大統領の狙いの一つだった。

NATOの北欧拡大のインパクト

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図4 長島純氏資料に基づき作成

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟により、ロシアから見ればバルト海がほぼ敵対勢力に取り囲まれる形となり、ロシア飛び地で戦略的要衝のカリーニングラードも封鎖されることに。

長島純氏(中曽根平和研究所研究顧問・元空将)によれば、地政学的にみたロシアの対抗策は、スウェーデンのゴッドランド島とフィンランドのオーランド諸島の占領。ロシアがこの両島を支配下に置き、さらにカリーニングラードとベラルーシをつなぐスヴァルキ回廊を支配して結べば、バルト三国を封鎖し、NATOから分断することが可能だという。