子どもたちの未来に、たくさんの選択肢を

特定非営利活動法人 NPOカタリバ 代表理事 今村久美

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コラボ・スクール授業風景。講師には大学生ボランティアも多い

コラボ・スクールから繋がる、広がる出会い
 
 コラボ・スクールは子どもたちだけではなく、カタリバにも新しい機会をもたらしている。大槌臨学舎のスタッフである川井さんは、震災後に勤めていた会社を辞め、まったく畑違いの世界に飛び込んだひとりだ。
 
「震災前はシステムエンジニアをしていたんです。でも私は宮城県の出身で、被災地も、復興の状況も、まったく人ごととは思えませんでした。未来をつくっていく子どもたちのために、自分にできることは何かないかと思い続けて。そこでコラボ・スクールを知って、思い切って飛び込んだんです」
 
 大槌町は、川井さんの生まれ育った地域ではなく、以前からよく知っていたというわけでもない。だが、地域の子どもたちや保護者の意識が、少しずつ、でも確実に変わってきていることを実感しているという。
 
「この辺りは、もともと大学が近くにない。だから、大学生もいない。日常的な存在ではなかったんです。そこに、大卒のスタッフたちが入っていって、大学の話をする。ボランティアでやってくる大学生という人種に出会う。コラボ・スクールに来るまで違う仕事をしていたスタッフに触れる。そうした中で、大学という存在が身近なものになってきました。これまで縁遠かった生き方を見て、自分たち自身のこととして考えるいい機会になっていると感じます」
 
 当初は無料だったコラボ・スクールも、今年からは月額5,000円の学費を設定している。支払いが難しい家庭向けには奨学金枠も設けてある。有料になると通ってくる子どもが減るのではないか、という声もあったが、その数は一年目とほとんど変わってはいない。このことに、今村さんは可能性を感じている。
 
「震災後の厳しい中にあっても、子どもにやる気があるのならコラボ・スクールに行かせてあげたい、という親御さんの意志の表れだと受けとめています。むしろ有料にすることで、私たちが試されている部分もあると思うし、やっぱり責任も大きい。その意味でも、無料の時にはあまりなかった、お互いの価値を確認し合って、よりよいものにしていこうというようなコミュニケーションの機会が増えたことは良かったと思います。子どもたちにとっても、私たちにとっても」
 
 立ち上げ時には、「ここにそんなものをつくっても誰も来ない」とまで言われたコラボ・スクール。それが今では、「1年間通わせてみて、やっぱりこれからも行かせたいと思った」「子どもにとっても、東京から来た若い人たちとの出会いが刺激的でいい」といった声が数多く寄せられる、かけがえのない存在となっている。今村さんやスタッフの熱意が、子どもたちの未来を、そして地域そのものを動かしつつある。(第3回「私たちと地域の未来に、新しい可能性を」に続く)
 
【今村久美 略歴】 いまむら くみ*1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。大学在学中に2001年に任意団体NPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2006年には法人格を取得し、全国約400の高校、約90,000人の高校生に「カタリ場」を提供してきた。2011年度は東日本大震災を受け、被災地域の放課後学校「コラボ・スクール」を発案。
 
【取材・構成:熊谷 哲(PHP総研)】
【写真:shu tokonami】

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