「子どもが売られない世界をつくる」―かものはしプロジェクトの挑戦
――いま、コミュニティファクトリーで働いているのは、どんな方々ですか?
青木:農村の最貧困層の家庭から、16歳から22~3歳の女性を中心に採用するようにしています。シングルマザーの方を採用したこともありますし、家族がいて、お姉さんだったりお母さんだったりといった方が多いですね。
――たとえば貧困が理由で売られるとか、だまされて連れて来られるといった場合に、被害者となる子どもの家族には、父親、男性も含まれますよね。男性に向けてというのは、とくにアプローチはされていないんですか?
青木:うちは女性だけです。
理由はいくつかあるのですが、あんまり偏ると問題なんですけど、開発の現場ではよくある話で、基本的に女性が収入をもったときのほうが、家族全体が裨益する率がすごく高まるんです。男性が収入をもった場合は、ギャンブルとか自分向けに使ってしまう可能性がすごく高い。かものはしとして、その人の収入を支えるだけでなく、その弟さん、妹さんが学校に行けるようにしたいということを考えたときに、女性が収入をもてるようにしたほうがいいということがありました。
また、男性は肉体労働ができるので、女性よりも仕事があるんですよね。一方で女性のほうが家族の傍にいたがるので、農村での暮らしを続けながらできる仕事が必要とされていたこと、コミュニティファクトリーで扱うハンディクラフトのようなものは、伝統的に女性が取り組むものとされていたこともあって、女性に絞っています。
――男性で働かせてほしいと言ってくる人はいないんですか?
青木:自分たちで応募してくるようなことはないですね。こちらが女性しか採用しないと明確に打ち出してやってきたこともあると思いますけど。また、働きたい人の公募はしていないんです。コミュニティファクトリーのスタッフは、ワークショップを開いて採用するというスタイルをとっています。
――ワークショップというのは、どんな方向けにどんな内容のものを?
青木:けっこう厳しい基準を設けているのですが、最貧困層の方で、とくに家庭に困難を抱えているような方だけを対象としています。ですが、まずその特定にコストがかかるんですよね。僕たちだけだと農村の情報をぜんぶ持っているわけではないので、村長さんとかコミュニティの市長さんみたいな人と連携して、まずはそちらで貧困家庭をある程度洗ってもらって、その人たちを呼んで、本当に彼らに仕事を提供すべきかどうかを判断する。
口コミの場合もありますが、そうやって対象となる方を特定したら、「こういう工場でこういう学びや収入が得られますよ」という話をして、応募してくれた方には、家庭訪問を行います。ひとつの家庭につき1~2時間かけて、丁寧にヒアリングして、持っている土地の大きさや資産、収入と支出といったものを全部チェックして、基準に当てはまる人から採用するという感じです。
――これまで述べ何名くらい採用されたんですか? 常に何名くらいいて、卒業された方はどのくらい?
青木:今は常時だいたい65名から70名くらいの人が、フルタイムで働いてくれています。100人くらいこれまで卒業していると思うので、述べだと170名くらいですね。
――卒業されていく方というのは、工場で働くことで得た収入で自立して、次のステップに行かれるんですか?
青木:いろんなタイプがあって、これまでは自分で就職先を見つけてきて、卒業していく人が多かったです。スタッフと、大丈夫なのか、本当にちゃんとやっていけるのかということを、進路相談みたいな感じで相談したりして。あとは結婚してやめていく人も多かったですね。
最近は卒業支援にも力を入れ始めたので、次のステップへという感覚も強くなってきているように思います。
――一回辞めて、戻ってくるようなことはないんですか?
青木:ありますよ。
――コミュニティファクトリー以外ではなかなか厳しい、と。
青木:コミュニティファクトリーだと農村の近くにあるので、家族の面倒を見ながら、家族と一緒に過ごしながら、安定的に収入が得られますが、そういう仕事はほかにほとんどありませんから。
卒業支援を始めたいまとなっても、ちょっと心折れて、ということもありますね。ただ、これもけっこう難しいんですよね。そういう人たちを受け入れOKにしてしまうと、出たり戻ったりすればいいじゃないか、というふうになってしまいかねないので。
――最貧困層に絞って支援をすることで、だんだん格差が埋まっていくのかなと思うんですが、同じ農村の中でも最貧困層としてかものはしの支援対象になる人と、そうならないくらいに稼げる人の差があるのは、土地の有無に起因する部分が大きいのですか? どのような要因でそうした格差が生まれてくるのでしょうか。
青木:土地はやっぱりひとつの大きな要因としてありますよね。土地があれば、年間を通して食糧が手に入るし、レジリエンスというか、なにかあったときにも、土地を売ったりすればどうにかなるという部分があります。土地がない人だと、たとえば病気になって手術しなければならないとなった場合、借金をするしかない。借金生活に入ると抜け出すことは非常に困難です。だから土地というのがまずひとつ大きな要素です。
もうひとつは、家庭環境ですね。兄弟の中で元気な人たちが多くて、お兄ちゃんが出稼ぎをして、ちゃんと定期的にお金を送ってくれるというような家庭だったら、収入がけっこう安定します。ほかの成功パターンとしては、土地は持っていないけれど、豚や牛、鶏を飼っていて、それを丁寧に管理して利益をちょっとずつ出しています、というような家庭もあります。そういうことができるような賢さというか生活力、僕たちはライフスキルと呼んでいるんですが、それがあるかどうかに分岐点があって、ライフスキルがある家庭は収入が安定するので、中学校卒業とか、なんなら高校進学も視野に入れられる。
農村内での格差は、そうした条件の違いの積み重ねの結果だと思います。
――コミュニティファクトリーでは、商品の生産だけでなく、そうしたライフスキルのトレーニングにも取り組まれているんですね。
青木:かものはしではただお金を稼ぐだけではなくて、ものづくりを通した学びを大切にしていて、問題解決のトレーニングやクメール語の読み書きに、工場にいる時間の2割ほどを充てています。
この前採用した女の子は、12歳で小学校をやめて、隣の県に出稼ぎに行って、橋の建設現場で働いていたんですね。15歳になったとき、コミュニティファクトリーの存在を知って応募してきてくれたんですが、うちで働く方が、実は収入は減るんですよ。橋をつくっているほうが稼げる。だけど、橋の建造はものすごくハードな肉体労働だし、学びがないって言うんですね。その子は12歳まで小学校に行っているので、だいたい読み書きはできましたが、流暢ではなかったし、キャリアプランなんて誰も立ててくれない。コミュニティファクトリーではまさにこの1年半くらい、そうしたトレーニングにすごく力を入れています。
(第二回「カンボジア支援の終了とコミュニティファクトリーの独立」へ続く)
青木 健太(あおき けんた)*2002年、東京大学在学中に、「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。
【写真:長谷川博一】