バブル崩壊以降の政治・行財政改革を解剖する

曽根泰教(慶應義塾大学大学院教授)×中里透(上智大学准教授)×永久寿夫(PHP総研代表)

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5.難しい地方分権と消費税増税
 
永久 前の自民党政権の時から地方分権の話が進んでいました。地方分権による財政、日本全体の経営に対する効果はどのように見ますか。
 
中里 地方分権、つまり権限と財源の移譲は非常に重要だと思います。市くらいのレベルであれば、行政を効率化するとその結果が自分の税負担の軽減という形で戻ってくることが実際に見えますよね。だからお金を大事に使うようになる。ただ、今の地方分権は、首長さんの立場からすると、財源は国で手当てしてください、使い方は自分たちの自由にさせてくださいというものになっています。これでは分権が進むと、かえって支出が増えてしまうということになりかねません。住民と向き合ってどうやって税負担をお願いするか、そういうところまでいかないと、効果はあらわれませんね。
 
曽根 よく例えに出すのですが、イギリスのゴルフクラブでは、前年にかかった費用を会員の頭数で割って翌年会費でチャージします。これをやると、会員は簡単に、あれして、これして、とは言わなくなります。結局、自分の負担も大きくなるわけですから。けれども、日本のゴルフクラブは高い会員権を買っているから、ああでもない、こうでもないと、支出が多くなるようなことを平気で言っちゃうと。つまり、地方分権でも、何か要求すると自分の負担になるという関係をつくらなければ財政的な効果は出ません。
 
永久 三位一体の改革のところまでは、課題を抱えながらも、そうした分権の方向に進んでいって、国全体の歳出も圧縮されましたが、その後、リーマンショックと東日本大震災対策で国から地方への財政移転が大きくなり、国の財政が肥大化し、その状態が続いています。最近は地方分権の議論もされなくなってしまった印象ですね。
 歳出が増えていく状況で、消費税増税が先送りになっていますが、報告書にもあるように、消費税自体が経済に負の影響を与えることもあり得るし、与えない場合もあるし、さらに外生的な要因で影響が出たりとか、複雑ですよね。歳入を確保するために消費税を上げるという議論はどう考えていくべきでしょうか。
 
中里 消費税そのものは安定的に財源が確保できる基幹的な財源なので、それを徐々に引き上げていくことは、今の財政状況を考えればやはり必要なことでしょう。ただ、2014年の春以降の経過をたどってみると分かるように、消費税の増税は消費を落ち込ませ、物価を押し下げる要因になるため、デフレ脱却という目標とは相反するところがあります。
 今後の展開を考えると、財政のことが非常に心配なので増税はやむなしということであれば、消費税は予定通り19年10月に引き上げようということになるでしょうし、債務を返すには緩やかなインフレの方が実質的な負担が軽減できると考えれば、デフレ脱却を優先させて、増税の時期は決めうちせず柔軟に考えるという議論も出てくるでしょう。
 ここで大事なのは、増税をすれば全部解決というわけではなく、増税をしても、それをよいことにまた安易に支出を増やしてしまうと、結局、いたちごっこになってしまうということです。
 足元、リーマンショック以前の水準を上回るところまで税収は戻ってきているわけですが、支出が大きく増えてしまっているために、ワニの口にしばしば喩えられる税収と支出の差額、つまり財政収支は「開いた口がふさがらない」状態になってしまっています。それをどう閉じていくのかを順序立てて考えないといけないということになります。
 

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