真の課題は世代間の負担と給付の格差

島澤諭(中部圏社会経済研究所)×小黒一正(法政大学教授)×亀井善太郎(PHP総研主席研究員)

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6、膨張主義を止め、将来世代を展望した政治への転換を
 
亀井 特別会計は膨張の温床になりますね。ガバナンスから遠くなった資金はいつのまにか何かの財布になり、財源があるなら使えばいいではないかという途上国型の政治を継続させてしまいます。やはり、成熟国家として、「そのお金があったら、次の世代の負担ないように返そう」という話が出てくる政治に転換しなければならないと思います。ただ、なぜ、それができないのでしょうか。
 
島澤 国債の存在が大きいと思います。赤字国債の特例が、特例でなく恒常化している現状からも明らかなように、歳出を実際の歳入で負担している部分というのはまあ6~7割程度で、あとは国債の負担で賄っています。そうなると、そもそも税のところで監視が働きません。
 本来、痛税感があれば、税の使い道への関心は高くなり、監視が行き届くようになります。しかし、これは保険で逃げるのと同じ構造で、自分たちの負担は7割しかなくて、残りの3割は姿の見えない将来世代の負担ともなれば、その分に関して、自分たちの負担ではないので、まあどうでもいいやという形になってしまいます。
 税率が高い北欧などですと、その一方で、税が様々な場面で返ってくるのが見える。それで、政府に対する信頼というのが高いわけです。それは、税金が高いからではなくて、きちんと戻ってくると自分たちが実感できているからです。それは、税の使われ方が監視されているからでもあります。
 翻って、日本を見ると、税の負担はそんなに多くない。ほとんど借金で賄っていますね。その結果、国民自身の税の使われ方への関心や監視が緩んでいるのだということです。
 
小黒 その通りです。今の話に続ければ、では、なぜ国債発行ができるのかという質問につながります。その答えはとても単純で、金利が低いからです。たくさん国債を出せば、本来、金利が上がっていくはずなのですが、そうならないのは日本銀行が大量に国債を買っているからです。では、それでよいのかといえば、最終的には、インフレや通貨の信認を失わせるという深刻なリスクの代償のもとにあるわけです。いまの日本銀行ではインフレを制御できなくなる可能性もあります。
 また、円安は日本経済にプラスと言われますが、それは加工貿易型の時代の主張であって、日本経済の構造が転換してきている現在、必ずしもプラスとは言い切れません。むしろ、優良企業の株式や事業や生活に必要な土地や建物、国家や国民にとって重要な資産が安く買われてしまうといった問題も抱えるのです。そうした問題先送り型の政策が潜在化させているリスクに私たちは目を向けなければなりません。
 
島澤 その通りです。アベノミクスというのは、守るべきものを失いかねないわけですから、長期的に考えて、保守政権が取るべき政策ではないように思います。
 今回の「こども保険」もそうですが、今の財政と社会保障の世代間のアンバランスが続く中、少子化対策をするというのは、結局、今の高齢世代の逃げ切りを許すのと、財政と社会保障の構造改革が行われない、あるいは、それを延命させるためのものだと思っています。逆に言うと、今のままで少子化対策が行われると、生まれてくる子供たちは非常に不幸なんです。
 そうした中、若い政治家が、この程度のことしか提案できないのは、たいへん情けないことだと思います。今の社会保障給付の構造的な課題を直視せず、また、その見直しも言わずに、こうした提案が出てくるのは本当に無責任なことだと思います。
 

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