真の課題は世代間の負担と給付の格差

島澤諭(中部圏社会経済研究所)×小黒一正(法政大学教授)×亀井善太郎(PHP総研主席研究員)

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7、若い世代こそ政治に声を出していこう
 
島澤 若い政治家が耳を傾け、注視すべきは、同世代であり、これからの世代です。
 しかし、それができないのは、しばしば、世代別の頭数が多く投票率が高いからだ、シルバーデモクラシーだからだと言われます。これはいわゆる中位投票者モデルの背景があると思いますが、もう一つ、確率的投票モデルによれば、別に頭数というのは実はそんなに大切ではなく、どのぐらい特定の集団の中で意見がまとまっているかが重要なのです。
 なぜ高齢者が重視されるか。それは「見える声」として固まっているからです。彼らは、ほとんど同じようなバックグラウンドを持ち、まとまれる可能性が非常に高い世代なのです。ほとんどが引退世代で、年金をもらい、医療・介護を受け取るという、構造的には同じ人たちです。高度経済成長の総中流の名残かもしれません。
 一方、若い世代を見れば、どういう仕事に就いているか、結婚しているかしていないか、あるいは、子供がいるかいないかということで、全然ばらばら、ばらつきが非常に大きいのです。そうすると、意見がまとまらないので、まとまった票が絶対入ってこない。一方、高齢者はまとまった票が入ってくるわけです。
 そうすると、高齢者が重視されるのは当たり前、若者が軽視されるのは当たり前。これは頭数ではないんです。どれだけまとまるか。まとまった固まりとして見えるかが重要なのです。
 最近、「保育園落ちた。日本死ね」で、あれ以来、若干流れが変わっているのは、保育園落ちたという人たちがある程度見えてきているからです。声を出しているので、見える声で投票しているのと同じわけですね。実際の投票ではないですが、見える化しています。「こども保険」もまさにその流れの一つなのかもしれません、やり方は全然だめですけどね。
 そう考えると、必ずしも頭数が少ないとか投票に行かないからというところが問題ではなくて、大同小異でどれだけ若い世代がまとまれるか。そこが肝心です。一点突破主義で、それぞれの若い人たちが固まって声を上げていけば、政治も振り向かざるを得ないので、変わってくると思うんですよね。いつまでもシルバーデモクラシーだとか何とかといってあきらめるのではなくて、若い人たちも何か問題があればそれなりに固まって、行動を起こせばよいのですよ。
 
小黒 今の指摘はたいへん重要だと思います。その文脈でいうと、今回の「こども保険」は、子育てのリスク、保育や幼児教育を受けられないリスクを対象にするとしていますが、本当の問題は、世代間の負担と給付の格差の是正にこそあると思うのです。高齢者への給付よりもむしろ現役世代への給付にもう少しシフトしていきましょう、財政の健全化も含めて、将来世代の負担やリスクを小さくしていきましょうと大くくりで言ったほうが、支持は得られるし、票も取れるはずなんですよね。ところが、では、どうやって改革するかとか、社会保障の何を給付カットするとか、増税もどのタイミングでやるかというふうになると、今すぐよりはあと3年後とか、それはカットできないとか、明示した瞬間から、みんなずれて、分断させられるんです。
 
亀井 そこを説得するのが本来の政治の役割なのだと思います。勘違いされることが多いのですが、政治の仕事は解決策の提示ではなく、リーダーとして、まず、国民と課題を共有することにあります。大枠の方向性は認められるものの、そこが抜けたまま安易な解決策として示されたのが、今回の「こども保険」であり、多くの弊害を孕んだものだということが今日の議論ではっきりしました。
 本日のご指摘は、これからの政治を見ていく上で重要な点ばかりでした。今後、政治の場でどのような議論が進むかわかりませんが、専門家として、お互いにあるべき政策論をしっかりと展開していきたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願い致します。今日はありがとうございました。

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