真の課題は世代間の負担と給付の格差
4、社会全体に負担を求められない弥縫策としての「こども保険」
亀井 そうした課題の現実感や原因に関する真剣な検討がなされたプロセスが感じられないのも、今回の提言の問題だと感じますね。
ここでお二人にお伺いしたいのは、引退世代の負担の問題です。すでにご指摘のとおり、高齢者の負担についての具体策はまったく書いていませんね。
島澤 全世代型と言いながら、高齢者の負担を後回しにしています。結局、実際は現役世代だけで支えましょうということではないでしょうか。全世代と言いながら、引退世代、高齢世代を負担から外しているんですよね。これでは連帯になりません。
実際、問題は、高齢者に負担をお願いすると票が減るとか、いろいろな問題があるのだと思いますが、全世代型で対応というのであれば、その名に恥じぬように、当然、初めから高齢者にも負担をお願いするのが筋でしょう。
亀井 もう少し突っ込んで伺いたいのですが、社会全体で負担するべきならば、財源としては、税で対応すべきところ、なぜ、保険料という手段に至ったのでしょうか。
小黒 繰り返しになりますが、本来は税金で取るべきというのが筋論です。ただ、現在は、消費税を先送りしているため、それは提案できないという政治の事情があるのでしょう。加えて、予定されている衆議院選挙が念頭にあると思います。前回の総選挙が2014年12月ですから、遅くとも2018年末までに次の総選挙があります。そうした状況の中、政策を打ち出していくとすれば、この政策を一つの目玉として選挙を戦っていくということも考えられる。その時に、消費税や高齢者に痛みを伴うような負担を求めるということを前面に出すと選挙は難しくなってしまいます。これは政治的な解釈ですね。
経済学的に言うと、今の社会保険が強制徴収であることを踏まえれば、税金か保険料かというところでどれぐらい違うかというのもあるのが率直なところです。島澤さんとよく一緒に研究させていただいていますが、世代間の負担と受益を比較してみれば、より若い世代になればなるほど負担超過になっているわけです。負担超過とは、リスク以上に負担しているということなので、世代間所得移転で見ると、完全に税の性質を持っているわけです。そう考えると、保険料という名前がついているから保険制度の中のものであって、税ではないのかというと、そうとも限らない。そこはよく考えておく必要はあると思います。
法人税の最終的な負担の帰着もそうです。いろいろ実証分析はありますが、100%ではないけれども、従業員が負担していると見ると、事業主負担分も実は現役世代の負担なのです。直感的には、結局、給与がその分減っているということですね。やはり、そう考えていくと、ここを本当に上げていいのかという疑問は残ります。
島澤 年金もそうですし、保険もそうだと思いますが、やはり世代間の負担と受益がアンバランスだという問題は、最近はよく指摘されていることです。ただ、それはそうとして、ある程度の信頼感はあると思います。それは、どのぐらいかはわからないけれども、払った分は、それなりにしっかり戻ってくるという安心感があって、年金でも医療でも同じです。
ただ、そこに「こども保険」という原則が外れたものが入ってくると、受益と負担のリンクがどんどん希薄化していく、見えにくくなってしまいます。ひいては、制度に対する信頼を失わせることにつながります。
加えて、問題なのは、保険料の逆進性です。所得税はもちろん、消費税であっても、生涯で見れば、これは所得に比例していますので、負担能力に応じた負担になります。しかし、保険料の場合、上限が決まっていたりしますので、これは実は非常に逆進性が強い。とくに国民年金保険料は定額なので逆進性が高いですよね。
自民党では、給付に所得制限をつけるかどうか現在検討が進められていると伝えられていますが、これもまた、保険としての受益と負担のリンクを希薄化させます。