現実の姿に即してさらなる発展の方向性を考える

折木良一(元統合幕僚長)×金子将史(政策シンクタンクPHP総研首席研究員)

 2013年12月の国家安全保障会議(以下NSC)創設から2年以上が経過したが、その実態は十分知られているとはいいがたい。こうした状況に一石を投ずべく、昨年11月、政策シンクタンクPHP総研が発表した提言報告書国家安全保障会議-評価と提言は、NSCの活動や現状をレビューし、その実態を明らかにした上で、客観的に評価し、さらなる発展の方向性を提言している。提言報告書をまとめた折木良一元統合幕僚長と金子将史政策シンクタンクPHP総研首席研究員が、その内容をもとに語り合った。

谷内氏へ提言書手交

1.期待以上に機能したNSC
 
金子 NSC創設から2年経ち、世間でも何となくうまくやっているという評価かなと思います。しかし、実際どのように動いているのか外部からはあまりよく分からない。経験者だけが知っているということだと、次の政権になった時、関係者が入れ替わった時に、うまくいかなくなるかもしれない。それではいけないだろうということで、折木さんとレビューをすることにしたわけです。
 折木さんも私も「国家安全保障会議の創設に関する有識者会議」のメンバーとして、NSCの制度設計から関わってきましたし、イギリス政府の招聘でイギリスのNSC関連組織を視察し、そこから学べる点をまとめて関係者に報告したという経緯もあります。
これまでのNSCの活動を振り返ってみて、全体としていかがですか?
 
折木 会議体としてのNSC、もしくは、NSCを支える事務局としての国家安全保障局(以下NSS)が成り立つかどうか、心配な面はありました。初めての取り組みですから。
 今回、関係者の方々と話をしてみて、彼ら自身が不満ではなくて、自信を持っていることが分かり、やはりこの組織をつくってよかったとあらためて思いました。
 
金子 そうですね、報告書を出した後、谷内国家安全保障局長以下のNSS幹部の方々と意見交換する機会がありましたが、思ったよりうまくいってるという認識を彼らも持っている印象です。
 折木さんからみて、NSCをつくってここが良かったという点はどこだと思いますか。
 
折木 やはり、特に外務と防衛の垣根を取り払えたところが一番良かった点だと思いますね。それは情報の共有でもそうですし、一緒に勤務することによってお互いに考えていることを共有できた意味も非常に大きい。お互いのことを余り知らないという官僚文化を取りはらえたのが、仕事の内容はまた別にして、よかったと思います。重要な課題、大きな事件がある中で、お互いに統合しながら取り組めたことは、すばらしいことだと評価しています。
 
金子 逆に、創設前は、そうならないのではないかとの心配もありましたね。有識者会議でも、こういう制度をつくっても、本当にうまくいくのかな、ちょっとやってみないとわからないなという感じがありました。
 
折木 そうですね、やはり、後ろにどうしても省益を抱えていますし、これまでの経緯もありますから、お互いに警戒するというか、緊張感というか、それは多少あったと思います。
 
金子 それから、イギリスのNSC関係者と話した際に強調していたのは、NSCをただのおしゃべりの場にしてはだめで、意思決定の場にしなければいけない、意思決定の場であるからこそ求心力が維持できる、ということでした。その点は私たちの視察報告書でも強調したところでありますが、これまでのところ日本のNSCは、意思決定の場として機能してきていると思います。
 単に情報交換というだけではなくて、そこで大事なことを、総理のリーダーシップのもとで、いろんなオプションを検討しながら決めていくようにできたことが、成功の原動力ではないでしょうか。
 

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折木良一氏(元統合幕僚長)

2.NSCはどのように動いているのか
 
金子 NSC本体は、四大臣会合、九大臣会合、緊急事態大臣会合という3つの会議体で構成されています。九大臣会合の機能はほぼ前の安保会議と同じですし、重要緊急事態に際して政治的な判断を審議する緊急事態大臣会合はまだ一度も開催されたことがありません。
 外交、防衛を統合する機能を果たしているのは四大臣会合です。政治家にきいても、事務方に聞いても、四大臣会合は、政治のリーダーシップが発揮されているようですね。特に現政権では安倍首相が議論を牽引しているとのことです。
 大臣会合本体に加えて、局長級の幹事会をはじめとする事務レベルでの調整メカニズムが構築されたことも画期的です。イギリスでヒアリングしたところでもNSC(O)と呼ばれる事務レベルの調整メカニズムの役割が大きいとのことでした。内閣官房にNSCを支える事務局たる国家安保局を置き、関係省庁を調整するメカニズムをしっかりつくったことが成功の要因のひとつでしょう。
 
折木 やはり、NSCを支えるNSSが非常に大事です。これから政権交代があったりしても、そこがカギになる組織としてうまく機能するように持っていかないと、形骸化してしまうおそれがあります。
 
金子 小泉政権の時も経済財政諮問会議が比較的機能していましたが、政権交代後は経済財政諮問会議もやめてしまえということで、別の枠組みでやることにしましたが、それがうまくいったとは言えません。安保政策の中身については安倍政権と違う考え方の政権がでてくることも当然ありうるわけですが、国家安全保障の方針を決めていく枠組みとしては、NSC以上にうまくいくものは考えにくいと思うんです。ですから、ここはうまく使ってもらうことを、政治家によく考えてもらう必要がある。
 
折木 当然ながら、政権が代われば、政策も変わってくると思いますが、安全保障政策の基本的な部分は、継続性というか、一貫性をもって、ずっとやっていかなければいけない話で、そこはしっかりした人材がこうした枠組みを担っていくのが大事でしょう。
 
金子 今回レビューして、ある意味で予想以上だったのは、中国とか韓国に関してはある程度報道でも出ていますが、谷内局長が米国のスーザン・ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官をはじめ随分他国のカウンターパートとやりとりしているということです。
 これまでは、その側面が抜けているか、部分的に官房長官なり外務次官なりがやっていたということでしょうから、その点だけでも相当日本の外交力、対外的なパワーが強まったといえます。
 
折木 韓国、中国あたりとの関係が少しプラスの方向に動いてきた背景にも、やはりそういう関係を築いて、カウンターパート同士で話したということもあるのかもしれませんね。
 ただし、谷内局長さんはじめ今のNSSの幹部だからうまくいっているということもあるでしょうが、あまり属人的になってしまうのはよくないでしょう。
 
金子 やはり総理に近いということで、相手国から見た時にこの人が話し相手になるというところはあるんでしょうね。国家安全保障局長の役割は、総理と局長との関係で大分変わってくると思いますが、カウンターパートとやりとりする役割は不可欠でしょう。
 

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3.中長期的な戦略策定機能の充実を
 
 
金子 われわれの報告書では、今後の課題について9つの提言を行なっています。折木さんは、特にどの点が大事とお思いですか。
 
折木 この提言でも書いてありますように、本来中長期の戦略策定がNSCの大きな目的だったと思います。これまでは法制整備があって、法案審議があったから、そちらに大分力を割かれていたようです。一段落したので、これからやってもらえると思いますが。
 追っかけで中長期の戦略をつくるのではなくて、本当は、きれいな話でいえば、先行的な戦略というのをつくらないといけない。先へ先へ読んでいくという、その辺りをNSCやNSSでしっかりやってもらいたい。
 南シナ海問題あたりでここまで既成事実化されて実効支配されているのは、中国が長期戦略の中で、海軍の増強も含めてずっとやってきて、今、そういう段階にいたっているのだと思いますね。それを許してきてしまったのは、対抗する側としては、戦略上の失敗だと思っています
 逆に言えば、インテリジェンスについては後でも議論しますが、目の前にある情報については情報部門が処理してNSCやNSSに上げてくれるにしても、それをトータルに、また歴史的に、相手を総力的に見てこうだよねという蓄積がない。
 そういう意味で、後の議論の先取りになってしまうかもしれませんが、インテリジェンスの組織を見直すことがNSCの主題につながっていくという気もしないでもない。
 
金子 中長期的な戦略企画に関しては、NSSの戦略企画班が担当しています。しかし、人員がほとんど安保法制に回されてしまい、クラウディングアウトがあった、資源が取られたという面は否定できません。安保法制が整っているかどうかということの戦略的インパクトも大きいので、とりあえずそちらに資源を割くのは仕方なかったのかなと思いますが。ようやく本来のミッションに取り組めるようになったわけなので、しっかり取り組んでもらえればと期待しています。
 ある種インテリジェンスと戦略の両方にまたがるかもしれないものとして、米国の国防総省で行われているネットアセスメント(将来的な軍事バランス、戦略バランスを予測する総合的な分析評価)があります。相手国の能力はもちろん、我が方の能力、同盟国の能力も含めてのアセスメントというものを体系的にやっていくことは、情報部門というよりは、むしろ戦略部門の役割が大きいでしょうが、それに基づいて、次回の国家安保戦略とか防衛大綱は策定されるべきと考えます。
 先に策定された国家安全保障戦略と防衛大綱は、それなりにいいものではあるのだけれども、どれだけ政府全体のアセスメント、ネットアセスメントに基づいて策定されたかというと疑問があります。
 
折木 ネットアセスメントに関連して、私がいつも個人的に言って嫌われてしまうのですが、やはり外交戦略なり防衛戦略があり、防衛でいえば防衛戦略とともに、外に出すか出さないかは別にして統合軍事戦略が基本にあって、その上でアセスメントをやっていくべきだと思います。
 防衛大綱については、「統合運用の観点からの能力評価」を実施したと言っています。では、その後ろの戦略とか戦術とか作戦とか、そういう観点で本当に客観的に評価したの?という点はちょっと気になっています。それはこれからつくっていかなければいけない話だと私は思っているのですが。
 
金子 統合運用という観点からの包括性というのはあったんだけれども、それ以外も含めての、相手方も含めての包括的な検討がどれくらいあったかというと、そうでもないかなということですよね。
 
折木 そうそう、おっしゃるとおり。
 
金子 それが次回、どれぐらいできるか。
 今回は、基本的にNSC、NSSをつくる前に策定作業を行ったので、時間もなかったのではありますが、NSC、NSSがこれだけ機能するようになった上で次回はつくるわけですから、いわば初めての本格的な国家安全保障戦略、防衛大綱にならなければいけない。
 
折木 そうですね。
 
金子 それから、もう一つ気になるのは、イギリスでも言っていましたが、やっているうちに段々ネタがなくなってきて、同じようなことばかり議論するということになってしまうと、初期の勢いが失われていくのではないかということです。きちんとアジェンダを絞り込んで、総理なり四大臣なりが議論して決断するのにふさわしいテーマを設定し続けられるかというところが大きいかなと思います。
 経済財政諮問会議についても、かつて「改革のエンジンではなく、アリーナになってきた」と竹中さんが批判していましたが、議論して終わり、ということにならないようにしなければいけないと思います。
 
折木 突き詰めれば、アジェンダもシビアなものがいっぱいあって、それを各省庁とか現場に任せている部分がかなりあると思いますね。外交にしても、防衛にしても。
 
金子 ある意味で、やりやすいところから始めている。今までできていなかったので、それでも意味があるのは確かだけれども、やれるところからやっているところもありますから、だんだん難しくなってくるかもしれないですね。サイバーなど、まさにそうでしょう。
 

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4.インテリジェンス機能をどうするか
 
金子 アジェンダとしてもっと取り上げていくべき、という分野はありますか。
 
折木 アジェンダそのものというよりまた情報の話になりますが、テーマを出して、政策と情報をマッチングさせるような会議をやってもらうことが大事で、その根っこはやはり情報だと思います。中東にしろ、中国にしろ、どこでもいいですが、相手の立場になった分析を基本にして本当にやっているのかなという疑問があります。だから、会議のやり方やアジェンダの決め方もこれから少し考えていただかなければいけないのかもしれません。わかりませんが。
 
金子 今の政権は力がありますので、地球儀俯瞰外交を進めていく方向で勢いよく進んでいます。今までできていなかったのでやらなければいけなかったところがあるわけですが、こうして日本の存在感が高まってくるというか、復活してみると、他国からも当然警戒されてくる。そういう意味でも、相手から見た視点を踏まえていくことがより重要になってくる面があるかもしれないですね。
 
折木 今の情報機関なりNSSでやるには物理的に限界があるのかもしれないので、そこはやはりシンクタンクが必要と思います。そこに人材なり、知識なり、情報なりをため込んでいかないと、官だけではちょっと厳しいのかなという気がするのですよね。
 
金子 広い意味でのインテリジェンスというか、まさに知性としてのインテリジェンスが必要だということですね。
 狭い意味でのインテリジェンスでいうと、防衛省にしても、外務省にしても、機微なところも含めて、相当程度NSC、NSSに提供して共有するということになってきて、それは本当に大きな変化だったと思います。ただし、今おっしゃったような中長期的な観点も含めてのアセスメントのところはまだ弱い。そこは本来、NSSの仕事ではなく、情報部門の仕事だということになっているわけですが、その面の強化は次の課題ではありますね。
 
折木 そうですね。おっしゃるとおり、NSC、NSSの問題でなくて、情報組織の話だと思いますが。
 
金子 狭い意味でのインテリジェンスでいうと、それこそヒュミント(人的情報源を介した諜報活動)をやらなければいけないとか、いろいろな議論があります。特にこの分野が必要ではないかというお考えはありますか。
 
折木 地域的な部分と機能的な部分があって、例えば情報本部でも地域についての担当があるのですが、やはり不十分という気がします。一つには地域専門家がもっと必要だということです。
 機能の方では、サイバーとか宇宙とか出てくるのですが、そちら側が情報とものすごく密接になっている。そういうところの専門家が必要でしょう。
 
金子 収集方法でいうと、アメリカの大統領への情報ブリーフィングでも、6割ぐらいがシギント(信号・通信の傍受による諜報活動)関連とも言われています。日本では、ヒュミントの必要性がよく指摘されるわけですが、ヒュミントは失敗すると大やけどをする。そういう意味でも、もう少しシギントをどうするかを考える必要があるのではないか。これはサイバー防衛にも密接に結びついてくるところでもあります。スノーデン事件もあり、プライバシーや市民の権利との関係は非常に難しいところではありますが、インテリジェンス強化を考えるのだったら、サイバーも含めてのシギントというというのは避けて通れないかなと思っています。
 
折木 日本と違って、イギリスとかフランスとか、多分中国もそうかもしれませんが、インテリジェンスに国の存亡がかかっているという姿勢ですよね。日本でもそういうスタンスで、どうあるべきかを情報部門がしっかり考えてもらいたいなという気がします。
 

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金子将史(政策シンクタンクPHP総研首席研究員)

5.危機管理・事態対処とNSCの関係
 
金子 もう一つの論点として、危機管理・事態対処との関係があります。私たちの報告書でも言及していますが、一般的な危機管理というのは、内閣危機管理監とか内閣官房の事態室(内閣官房の事態対処・危機管理スタッフの通称)のラインでやる、そしてその戦略的含意についてはNSCの方で検討する、そういう整理になっています。
 ただ、ハイエンドな有事が起きてきた場合には、それ自体が戦略的な事象なわけですから、四大臣会合になるのか、緊急事態大臣会合になるのかわかりませんが、NSCが中心になってやることになるのでしょう。
 
折木 今は、属人的な関係も含めて、事態室とNSSはお互いに情報共有しながらうまくやっていると思いますが、やってないのは、やはりハイエンドな有事についてですね。その時の役割分担なりどうするのだということを、シミュレーションでもやって、きっちりガイドラインをつくっておくといった備えが必要です。
 そうしておかないと、最終的には責任問題になり、とんでもない方向に行ってしまうということにもなりかねないので、やはり、まずシミュレーションをやって役割を決めることだと思うのです。属人的関係がいいからいいんだということではだめだと私は思っています。
 
金子 ハイエンドな有事が、朝鮮半島なり、東シナ海なりで実際に起きた場合に、統幕長は対処そのものをやらなければいけないわけですが、NSCの中ではどういう役割を果たすのでしょう。常時陪席というわけにはいかないですよね。
 
折木 統幕長は統合幕僚監部で任務応対しなければいけないから、統幕長がずっとNSCの場にいるという話ではないと思います。統幕副長あたりは出さなければいけないかもしれない。東日本大震災の時には戦いがないから、部長クラスをあちこち使えたのですが、そうはできない。
 そうなった時に使えるのは、統幕の副長であり、総括官のところの動きだと思います。そこが官邸にいて、つなぎをやるのかなと思っています。
 グレーゾーンからハイエンドに移っていく中で、よく言われている「事態室とNSC、NSSと、どこが、どう仕切るんだ」という面は出てくると思います。NSCなりNSSというのは、事態室とは違う俯瞰した目で客観的に見なければいけないと思いますね。政治、外交、防衛という視点です。そこは役割がもともと違う気がするのです。
 
金子 最初は事態室の方も、何か「役割を取られてしまうのではないの?」という警戒感があったと思いますが、少なくとも、2年間やってみて、「こういう役割分担でやっていくのかな」という文化というか慣行がつくられつつあるのかなという感じではありますね
 
折木 そうですね。一つどうしても難しいのは、国内の南海トラフ地震、首都直下地震が発生した時に、NSCはどういう役割をするのという点です。NSSや事態対処室だけではなくて、各省庁が全部絡んで、統合対策本部か何をつくって、それで動かし始めるのでしょうけれども、そこの任務分担とか役割分担をどうするか。
 
金子 地震だったら、災害対策本部のほうが、強い権限を持っているので、それをどう動かすか、そして災害対応をしている中で、外国との関係をどうしていくかというところをNSC、NSSでやっていくという感じでしょうかね。
 
折木 そういうことでしょうね。
 

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6.人材と情報発信の重要性
 
金子 NSCにしてもNSSにしても、今後うまくいくにはやはり適材がその担い手になることが大事で、そういう人材を供給し続けられるかが肝心なところです。
 四大臣会合は、今機能していても、そこで経験を積める政治家は限られてしまうわけですね。ですから、たとえば、次の世代の有望株を担当の総理補佐官に充てて、自分が大臣になったときにこういう風にすればいいと体得する、そういうことも必要かなと思います。
 
折木 それは、政治家もそうですし、官僚もそうだと思いますね。よく見てみると、官僚の中で生き延びているのは、能力がある人が行ったり来たりしているだけの話で、白紙的に人材を選んできているわけでも何でもない。
 やはり、そういうキャリアパスを考えなければいけないと思います。そういう面で、総理補佐官を一つのステップとして、キャリアパスとして考えてもいいのかなと思います。
 
金子 事務方の人材は、エース級を最初に投入して、2巡目ぐらいにもうなってきていますが、この調子で出していけるものなのか、少し心配です。自衛隊は組織として大きいので大丈夫だろうという感じがしますが。
 
折木 でも、官邸での仕事は、やはり異質だと思いますね。そういう面では、戦略的な目で見られるとか、インテリジェンスの視点で見られるとか、そういうセンスを若いうちから育てていかなければいけない。
 
金子 どうすれば育ちますか。
 
折木 それは、そこにやはり勤務させないと育たないので。
 
金子 若いうちからですね。
 
折木 そうです。自衛隊の制服組にとっては、官僚なのか何なのか、よくわからないような話になってしまうのですが、ある時期に来た時にやはりそういう育て方をしていかないといけない。本当の意味で政軍関係だと思いますが、政が軍のことをわからないし、軍も政のことをわからないということだと、とんでもないことになります。政軍関係の大事なところだと思いますね。
 
金子 制服組をNSSに入れることは最初から総理もそういう方針だったと思いますが、実際非常によかったという声が大きいですね。
 
折木 制服を着て勤務している人はものすごく異質でしょう。今まで事態室にても、みんな制服は着ていなかったでしょう。最初に制服で勤務した人たちは、ものすごく緊張感と違和感があったのかもしれないけれども、緊張感があるから育っていく部分も多分にあったと思います。
 
金子 そうした経験は、先ほどおっしゃったように、政軍関係についての理解を得る意味でも非常にいいと。
 
折木 私は大事だと思います。
 
金子 ヒアリングしたシビリアンの官僚の人たちも、「軍事的な専門家が常時近くにいてすぐやりとりできるのは本当にありがたい」と言っていましたね。
 
折木 だから、恥ずかしくないのを育てなければいけないですが(笑)。
 
金子 NSCをうまく機能させる上では、政治家、特に総理の役割が大きいと思います。人によっては、「民主党政権の時だってNSCがあれば、あんなことにはならなかった」と言う人がいるのですが、私はそうかな?と。NSCは、日本の場合は基本的に集権化の方向性なので、間違える場合にはより大きく間違えることになる可能性もあるわけです。
 そういう意味でも、NSCを仕組みとしてうまく回していくことが大事であると同時に、やはり目指している方向が正しくないといけない。戦略的な方向性が大事だなと思います。
 
折木 やはり、組織というのは、ましてや官邸であり、総理なので、やはり上のことをおもんぱかって動くと思うのですね。
 そういう面で、リーダーが本当の方向性を持っていないと、今、金子さんがおっしゃるとおり、変なほうに動いていく可能性があります。やはりリーダーの責任というのがきわめて大きいと思いますね。
 
金子 リーダーがそういう役割を果たしていくにしても、NSCが次の政権でもしっかり使われていくようになる上でも、やはりNSCに対する適切な理解が必要です。私たちの報告書も、半分以上はそれが目的で、実態はこうなんですよということが広く理解されておくことが望ましい。いろいろ批判するにしても、実態をふまえた上ですべきだろうと。
 私たちは、実態をふまえた上で、比較的うまくいっていると思っているわけですが、NSCなりNSSも、広報努力というか、説明責任というか、「こういうことをやっているのですよ」ということを、もう少しいろいろな場で発信していくことが必要なのではないでしょうか。
 
折木 おっしゃるとおり、やはり情報発信機能はものすごく大事で、やはりアメリカにしても、その他の国にしても、補佐官や報道官が出てきてコメントする。それは外に対するシグナルでもあるし、内に対するシグナルでもあって、いい人材が集まってくるとか、いろいろな副次的な効果が多分にあると思います。
 
金子 ただ、説明責任を果たそうとすると、変な細かいところを突っ込まれて、国会とかでつるし上げられる、そういうことだと、やめておこうかとなってしまう。
 国会にしても、メディアにしても、些末なところを捉えて批判するということではなくて、本質的な議論をしてもらうということでないと、積極的にもっと情報を出していこうとなりにくい。そこはお互い前向きな議論ができるようになっていけばいいかなと思います。
 
折木 NSSが、「何も言えません」とか、「そこは言えません」とか、そればかりになってしまうと、国の方向性を誤る気もしないでもないですね。
 
金子 そうですね。誰でも入れる平場は難しいかもしれないですが、この間岸田外相が日本国際問題研究所でスピーチをしたような、そういう場で、国家安全保障局長がそれなりの長さの政策スピーチをして、闊達な議論をし、その後原稿を公開するといったことはやってもいいのではないでしょうか。
 
折木 そうですね。
 
金子 米国の国家安全保障担当大統領補佐官は、議会には出なくていいわけですが、ドニロンにしても、ライスにしても、時々しかるべきオーディエンス向けの政策スピーチをやっています。そうしたことは考えてもよいと思います。
 
折木 今回報告書を出してみてわかったのは、NSC、NSSに対するイメージが人によって随分違うということです。
 わかっている人は、「そうだよね」と理解してくれるのですが、NSCの外にいる人にとってはまだ理解が難しいようにも思います。
政治的にも、防衛、外交的にも、とても大事な会議、組織なわけですから、もっと国民に理解してもらう努力をしていった方がいい、そういう気がします。
 

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