現実の姿に即してさらなる発展の方向性を考える

折木良一(元統合幕僚長)×金子将史(政策シンクタンクPHP総研首席研究員)

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3.中長期的な戦略策定機能の充実を
 
 
金子 われわれの報告書では、今後の課題について9つの提言を行なっています。折木さんは、特にどの点が大事とお思いですか。
 
折木 この提言でも書いてありますように、本来中長期の戦略策定がNSCの大きな目的だったと思います。これまでは法制整備があって、法案審議があったから、そちらに大分力を割かれていたようです。一段落したので、これからやってもらえると思いますが。
 追っかけで中長期の戦略をつくるのではなくて、本当は、きれいな話でいえば、先行的な戦略というのをつくらないといけない。先へ先へ読んでいくという、その辺りをNSCやNSSでしっかりやってもらいたい。
 南シナ海問題あたりでここまで既成事実化されて実効支配されているのは、中国が長期戦略の中で、海軍の増強も含めてずっとやってきて、今、そういう段階にいたっているのだと思いますね。それを許してきてしまったのは、対抗する側としては、戦略上の失敗だと思っています
 逆に言えば、インテリジェンスについては後でも議論しますが、目の前にある情報については情報部門が処理してNSCやNSSに上げてくれるにしても、それをトータルに、また歴史的に、相手を総力的に見てこうだよねという蓄積がない。
 そういう意味で、後の議論の先取りになってしまうかもしれませんが、インテリジェンスの組織を見直すことがNSCの主題につながっていくという気もしないでもない。
 
金子 中長期的な戦略企画に関しては、NSSの戦略企画班が担当しています。しかし、人員がほとんど安保法制に回されてしまい、クラウディングアウトがあった、資源が取られたという面は否定できません。安保法制が整っているかどうかということの戦略的インパクトも大きいので、とりあえずそちらに資源を割くのは仕方なかったのかなと思いますが。ようやく本来のミッションに取り組めるようになったわけなので、しっかり取り組んでもらえればと期待しています。
 ある種インテリジェンスと戦略の両方にまたがるかもしれないものとして、米国の国防総省で行われているネットアセスメント(将来的な軍事バランス、戦略バランスを予測する総合的な分析評価)があります。相手国の能力はもちろん、我が方の能力、同盟国の能力も含めてのアセスメントというものを体系的にやっていくことは、情報部門というよりは、むしろ戦略部門の役割が大きいでしょうが、それに基づいて、次回の国家安保戦略とか防衛大綱は策定されるべきと考えます。
 先に策定された国家安全保障戦略と防衛大綱は、それなりにいいものではあるのだけれども、どれだけ政府全体のアセスメント、ネットアセスメントに基づいて策定されたかというと疑問があります。
 
折木 ネットアセスメントに関連して、私がいつも個人的に言って嫌われてしまうのですが、やはり外交戦略なり防衛戦略があり、防衛でいえば防衛戦略とともに、外に出すか出さないかは別にして統合軍事戦略が基本にあって、その上でアセスメントをやっていくべきだと思います。
 防衛大綱については、「統合運用の観点からの能力評価」を実施したと言っています。では、その後ろの戦略とか戦術とか作戦とか、そういう観点で本当に客観的に評価したの?という点はちょっと気になっています。それはこれからつくっていかなければいけない話だと私は思っているのですが。
 
金子 統合運用という観点からの包括性というのはあったんだけれども、それ以外も含めての、相手方も含めての包括的な検討がどれくらいあったかというと、そうでもないかなということですよね。
 
折木 そうそう、おっしゃるとおり。
 
金子 それが次回、どれぐらいできるか。
 今回は、基本的にNSC、NSSをつくる前に策定作業を行ったので、時間もなかったのではありますが、NSC、NSSがこれだけ機能するようになった上で次回はつくるわけですから、いわば初めての本格的な国家安全保障戦略、防衛大綱にならなければいけない。
 
折木 そうですね。
 
金子 それから、もう一つ気になるのは、イギリスでも言っていましたが、やっているうちに段々ネタがなくなってきて、同じようなことばかり議論するということになってしまうと、初期の勢いが失われていくのではないかということです。きちんとアジェンダを絞り込んで、総理なり四大臣なりが議論して決断するのにふさわしいテーマを設定し続けられるかというところが大きいかなと思います。
 経済財政諮問会議についても、かつて「改革のエンジンではなく、アリーナになってきた」と竹中さんが批判していましたが、議論して終わり、ということにならないようにしなければいけないと思います。
 
折木 突き詰めれば、アジェンダもシビアなものがいっぱいあって、それを各省庁とか現場に任せている部分がかなりあると思いますね。外交にしても、防衛にしても。
 
金子 ある意味で、やりやすいところから始めている。今までできていなかったので、それでも意味があるのは確かだけれども、やれるところからやっているところもありますから、だんだん難しくなってくるかもしれないですね。サイバーなど、まさにそうでしょう。
 

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