現実の姿に即してさらなる発展の方向性を考える

折木良一(元統合幕僚長)×金子将史(政策シンクタンクPHP総研首席研究員)

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金子将史(政策シンクタンクPHP総研首席研究員)

5.危機管理・事態対処とNSCの関係
 
金子 もう一つの論点として、危機管理・事態対処との関係があります。私たちの報告書でも言及していますが、一般的な危機管理というのは、内閣危機管理監とか内閣官房の事態室(内閣官房の事態対処・危機管理スタッフの通称)のラインでやる、そしてその戦略的含意についてはNSCの方で検討する、そういう整理になっています。
 ただ、ハイエンドな有事が起きてきた場合には、それ自体が戦略的な事象なわけですから、四大臣会合になるのか、緊急事態大臣会合になるのかわかりませんが、NSCが中心になってやることになるのでしょう。
 
折木 今は、属人的な関係も含めて、事態室とNSSはお互いに情報共有しながらうまくやっていると思いますが、やってないのは、やはりハイエンドな有事についてですね。その時の役割分担なりどうするのだということを、シミュレーションでもやって、きっちりガイドラインをつくっておくといった備えが必要です。
 そうしておかないと、最終的には責任問題になり、とんでもない方向に行ってしまうということにもなりかねないので、やはり、まずシミュレーションをやって役割を決めることだと思うのです。属人的関係がいいからいいんだということではだめだと私は思っています。
 
金子 ハイエンドな有事が、朝鮮半島なり、東シナ海なりで実際に起きた場合に、統幕長は対処そのものをやらなければいけないわけですが、NSCの中ではどういう役割を果たすのでしょう。常時陪席というわけにはいかないですよね。
 
折木 統幕長は統合幕僚監部で任務応対しなければいけないから、統幕長がずっとNSCの場にいるという話ではないと思います。統幕副長あたりは出さなければいけないかもしれない。東日本大震災の時には戦いがないから、部長クラスをあちこち使えたのですが、そうはできない。
 そうなった時に使えるのは、統幕の副長であり、総括官のところの動きだと思います。そこが官邸にいて、つなぎをやるのかなと思っています。
 グレーゾーンからハイエンドに移っていく中で、よく言われている「事態室とNSC、NSSと、どこが、どう仕切るんだ」という面は出てくると思います。NSCなりNSSというのは、事態室とは違う俯瞰した目で客観的に見なければいけないと思いますね。政治、外交、防衛という視点です。そこは役割がもともと違う気がするのです。
 
金子 最初は事態室の方も、何か「役割を取られてしまうのではないの?」という警戒感があったと思いますが、少なくとも、2年間やってみて、「こういう役割分担でやっていくのかな」という文化というか慣行がつくられつつあるのかなという感じではありますね
 
折木 そうですね。一つどうしても難しいのは、国内の南海トラフ地震、首都直下地震が発生した時に、NSCはどういう役割をするのという点です。NSSや事態対処室だけではなくて、各省庁が全部絡んで、統合対策本部か何をつくって、それで動かし始めるのでしょうけれども、そこの任務分担とか役割分担をどうするか。
 
金子 地震だったら、災害対策本部のほうが、強い権限を持っているので、それをどう動かすか、そして災害対応をしている中で、外国との関係をどうしていくかというところをNSC、NSSでやっていくという感じでしょうかね。
 
折木 そういうことでしょうね。
 

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