現実の姿に即してさらなる発展の方向性を考える
6.人材と情報発信の重要性
金子 NSCにしてもNSSにしても、今後うまくいくにはやはり適材がその担い手になることが大事で、そういう人材を供給し続けられるかが肝心なところです。
四大臣会合は、今機能していても、そこで経験を積める政治家は限られてしまうわけですね。ですから、たとえば、次の世代の有望株を担当の総理補佐官に充てて、自分が大臣になったときにこういう風にすればいいと体得する、そういうことも必要かなと思います。
折木 それは、政治家もそうですし、官僚もそうだと思いますね。よく見てみると、官僚の中で生き延びているのは、能力がある人が行ったり来たりしているだけの話で、白紙的に人材を選んできているわけでも何でもない。
やはり、そういうキャリアパスを考えなければいけないと思います。そういう面で、総理補佐官を一つのステップとして、キャリアパスとして考えてもいいのかなと思います。
金子 事務方の人材は、エース級を最初に投入して、2巡目ぐらいにもうなってきていますが、この調子で出していけるものなのか、少し心配です。自衛隊は組織として大きいので大丈夫だろうという感じがしますが。
折木 でも、官邸での仕事は、やはり異質だと思いますね。そういう面では、戦略的な目で見られるとか、インテリジェンスの視点で見られるとか、そういうセンスを若いうちから育てていかなければいけない。
金子 どうすれば育ちますか。
折木 それは、そこにやはり勤務させないと育たないので。
金子 若いうちからですね。
折木 そうです。自衛隊の制服組にとっては、官僚なのか何なのか、よくわからないような話になってしまうのですが、ある時期に来た時にやはりそういう育て方をしていかないといけない。本当の意味で政軍関係だと思いますが、政が軍のことをわからないし、軍も政のことをわからないということだと、とんでもないことになります。政軍関係の大事なところだと思いますね。
金子 制服組をNSSに入れることは最初から総理もそういう方針だったと思いますが、実際非常によかったという声が大きいですね。
折木 制服を着て勤務している人はものすごく異質でしょう。今まで事態室にても、みんな制服は着ていなかったでしょう。最初に制服で勤務した人たちは、ものすごく緊張感と違和感があったのかもしれないけれども、緊張感があるから育っていく部分も多分にあったと思います。
金子 そうした経験は、先ほどおっしゃったように、政軍関係についての理解を得る意味でも非常にいいと。
折木 私は大事だと思います。
金子 ヒアリングしたシビリアンの官僚の人たちも、「軍事的な専門家が常時近くにいてすぐやりとりできるのは本当にありがたい」と言っていましたね。
折木 だから、恥ずかしくないのを育てなければいけないですが(笑)。
金子 NSCをうまく機能させる上では、政治家、特に総理の役割が大きいと思います。人によっては、「民主党政権の時だってNSCがあれば、あんなことにはならなかった」と言う人がいるのですが、私はそうかな?と。NSCは、日本の場合は基本的に集権化の方向性なので、間違える場合にはより大きく間違えることになる可能性もあるわけです。
そういう意味でも、NSCを仕組みとしてうまく回していくことが大事であると同時に、やはり目指している方向が正しくないといけない。戦略的な方向性が大事だなと思います。
折木 やはり、組織というのは、ましてや官邸であり、総理なので、やはり上のことをおもんぱかって動くと思うのですね。
そういう面で、リーダーが本当の方向性を持っていないと、今、金子さんがおっしゃるとおり、変なほうに動いていく可能性があります。やはりリーダーの責任というのがきわめて大きいと思いますね。
金子 リーダーがそういう役割を果たしていくにしても、NSCが次の政権でもしっかり使われていくようになる上でも、やはりNSCに対する適切な理解が必要です。私たちの報告書も、半分以上はそれが目的で、実態はこうなんですよということが広く理解されておくことが望ましい。いろいろ批判するにしても、実態をふまえた上ですべきだろうと。
私たちは、実態をふまえた上で、比較的うまくいっていると思っているわけですが、NSCなりNSSも、広報努力というか、説明責任というか、「こういうことをやっているのですよ」ということを、もう少しいろいろな場で発信していくことが必要なのではないでしょうか。
折木 おっしゃるとおり、やはり情報発信機能はものすごく大事で、やはりアメリカにしても、その他の国にしても、補佐官や報道官が出てきてコメントする。それは外に対するシグナルでもあるし、内に対するシグナルでもあって、いい人材が集まってくるとか、いろいろな副次的な効果が多分にあると思います。
金子 ただ、説明責任を果たそうとすると、変な細かいところを突っ込まれて、国会とかでつるし上げられる、そういうことだと、やめておこうかとなってしまう。
国会にしても、メディアにしても、些末なところを捉えて批判するということではなくて、本質的な議論をしてもらうということでないと、積極的にもっと情報を出していこうとなりにくい。そこはお互い前向きな議論ができるようになっていけばいいかなと思います。
折木 NSSが、「何も言えません」とか、「そこは言えません」とか、そればかりになってしまうと、国の方向性を誤る気もしないでもないですね。
金子 そうですね。誰でも入れる平場は難しいかもしれないですが、この間岸田外相が日本国際問題研究所でスピーチをしたような、そういう場で、国家安全保障局長がそれなりの長さの政策スピーチをして、闊達な議論をし、その後原稿を公開するといったことはやってもいいのではないでしょうか。
折木 そうですね。
金子 米国の国家安全保障担当大統領補佐官は、議会には出なくていいわけですが、ドニロンにしても、ライスにしても、時々しかるべきオーディエンス向けの政策スピーチをやっています。そうしたことは考えてもよいと思います。
折木 今回報告書を出してみてわかったのは、NSC、NSSに対するイメージが人によって随分違うということです。
わかっている人は、「そうだよね」と理解してくれるのですが、NSCの外にいる人にとってはまだ理解が難しいようにも思います。
政治的にも、防衛、外交的にも、とても大事な会議、組織なわけですから、もっと国民に理解してもらう努力をしていった方がいい、そういう気がします。