折木良一(第三代統合幕僚長)×金子将史(PHP総研首席研究員)

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7.求められる政治、外交、軍事、経済を統合できる人材と仕組み
 
金子 特に自衛隊幹部へのメッセージがあればお願いしたいのですが。
 
折木 そこはおこがましくて、言いづらいのですが……。
 任務とか役割も増えてきて、それから、法律的に防衛省設置法も修正され、シビルと制服と両輪で防衛大臣を補佐する体制になったわけですから、そういう面ではより責任も重くなったわけですね。
 だから、少なくとも軍事的な側面については中長期的に判断をしながら、しっかり大臣を、補佐してもらいたい。すばらしい人材が統幕長や高級幹部になっていますから、私は心配することはないと思っています。
 
金子 統幕長のあるべき姿についてどうお考えですか。
 
折木 それは、やめましょう(笑)。
 
金子 やはり言いづらいですか(笑)。
 
折木 あるべき姿は人によって違うと思うんですね。だから、能力は別にして、その人の性格に合ったやり方をやってもらいたいし、客観的な視点というのを忘れないで、自分なりのスタンスでやってもらえれば、私はいいのかなというふうに思います。
 
金子 こういうことをうかがったのは、最初のほうの話に戻るのですが、今の安全保障というのは軍事だけでない、非常に幅広い側面があるわけですよね。ですから、自衛隊の方というのはもちろん軍事のプロなんだけれども、より幅広い視野の中で軍事も捉えていなければいけないのだろうなと思います。統幕長も「一軍人でございます」というだけではない視野が求められるのではないかと思うんです。
 
折木 本当にそうなんですね。純軍事的なということを考えれば、単純といえば本当に単純な話ですが、やはり、軍事行動をやる時に他に及ぼす影響というのは、当然、政治、外交にもあるし、経済的なものにもあります。逆に、政治・経済が軍事に及ぼす影響というのもあるわけですね。
 それは、近代になればなるほど、その影響が大きいし、昔であれば遅効的に経済や外交に影響が出ていたものが、今はすぐその影響が出る時代ですね。
 
金子 株価も上下しますし。
 
折木 世論もそうですね。
 だから、そういう面では、幅広く考える訓練をしなければいけないと思います。
 軍隊ですから、最悪をずっと考える。でも、最悪を考えることで客観的な自分の位置づけなり、組織の位置づけができる。悪いほう、悪いほうを考えながら、顔はにこにこしているのが理想的かなと思っているのですが。
 
金子 船橋洋一さんにお目にかかった時、折木さんについて、経済も視野に入れて話ができる自衛隊幹部がやっと出てきたと仰っていて、まさにそうだなと思います。こういう方がトップになる限り、自衛隊の暴走を懸念する必要はないでしょう。
 政治の側は逆に、政治経済のことは当然考えるんだけれども、軍事についても、プロフェッショナルではないけれども、それを折り込んで外交なり何なりを展開していってもらわなければいけない。
 
折木 今まで日本の政治や外交、あるいは経済を考える時に、軍事的な要素、安全保障的な要素というのは脇にあって、一緒に考えるものではなかったと思いますね。ところが、やはり関連しているということが、今の時代になって皆さんお気づきになり始めたと思います。だから、安全保障は安全保障、経済は経済、政治は政治と分離されて考える時代ではなくて、やはりトータル的に考えなければいけないと思います。
 
金子 その意味でも、国家安全保障会議(NSC)創設で、政府全体といいますか、国家意思としてどうしていくということを検討する場ができた意義は大きいですね。
 
折木 それも、単なる「こうしたい」ではなくて、情勢判断をやった上で、大きく考える仕組みができた。その中で「こうしたい」というのが決められていく、そういう体制になってきたと思います。
 
金子 国家安全保障会議については現状をきちんと精査して、よいところをしっかり評価しつつ、改善すべきところは改善して、活力を絶えず維持していくようにしていかなければなりません。
 要路に全体的な視野を持つ人材を得ること、それらの人材が相互に支え合う仕組みをつくることは大切です。しかし、同時にそれは、国民世論の現実的な安全保障認識、安全保障論議に根差すものでなければならない。平和安全保障法制ができてそれで終わりということではなく、むしろこれから落ち着いた議論が行われるように期待したいと思います。
 

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