折木良一(第三代統合幕僚長)×金子将史(PHP総研首席研究員)

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4.同盟国・アメリカの東アジア観
 
金子 中国への対応という意味で大事なのは当然ながら米国との関係です。折木さんは、統幕長を退任された後も、笹川平和財団や日本再建イニシアティブのプログラム等で、アメリカの安全保障コミュニティのトップレベルと交流されています。現在アメリカの中国認識は、厳しく対抗していくという方向に向かっているのか、それともやはり関与を重視する方向なのか、どちらの感触ですか。
 
折木 その前に、日本とアメリカの場合、中国に対する見方に、基本的なギャップがあることを認めなければいけないと思いますね。
 それは地理的な問題もありますし、歴史的な問題もあって、日本の場合は、2000年以上、隣国としての中国からいろいろ教えてもらったりしながら、つき合ってきたわけで、肌身で中国のいいところと悪いところを感じられると思います。
 ところが、アメリカはアジアを全体として見ており、日本から見れば甘い部分が多分にある。だから、そこのところは認めた上で対応していかなければいけないと思います。
 他方、オバマ政権になって変わってきているのは、関与の世界がものすごく大きくて、その根っこのところには米中の経済関係が絡んでいると思います。新しい大国関係こそ認めないけれども、まあ中国と仲よくやっていこう、事を荒立てたくないという政策でずっと走ってきた。
 それが、最近の中国の南シナ海でのあからさまな実効支配の推進が顕著になり、急に対応が変わってきて、私自身も戸惑うぐらいです。中国が考えているのは、アメリカが考えていた以上に、覇権を求めるとか、地域に影響力を及ぼすとか、そういうことなんだなと。アメリカと対立はしないまでも、アメリカの影響力を少なくしようと本気で動き始めている、そう認識し始めていると思います。「これはまずい」というのが今の傾向になりつつある印象です。
 ただ、オバマ政権がどうかというと、色々な報道を見ているとまだそこは甘いのかもしれません。アメリカの中にも今ギャップがある。ちょうど境目ぐらいかなと思っています。
 
金子 軍の中でも以前より警戒が強まっている感じですか。
 
折木 そうですね。7月24日でしたか、アメリカでハリス太平洋軍司令官が米国でのシンポジウムに参加して、「中国は南シナ海で軍事目的で動いている。人工島を使ってレーダーまで配置、ファイアリー・クロスでは、戦闘機の格納庫までつくっている。人工島にレーダーまで配置するようになったら、これはアメリカが対中シナリオを考える上での攻撃目標だ」と、そういうことまで発言しています。
南シナ海地域については米軍の見方は厳しくなっていると言えますね。
 
金子 ただ、中国の行動に対して、では米国は、あるいは日本は何ができるのか。一回やり始めてしまったものを巻き戻させるのは、かなり難しいですよね。
 折木さんがもし現役だったら、日本政府、あるいは、アメリカ、同盟国に対して、今であれば何をすべきと献策しますか。
 
折木 少し時期を失したような気もするんですね。
 というのは、中国は軍を使用しなかったら、アメリカは非難するけれども、行動には出ないと判断しているきらいがある。
 中国は、南シナ海で実力のある海上法執行機関を中心としてハイブリッドで対応しており、後ろに軍はいるんだけれども、実際は動かない、そういう中でやっているから、やめさせようとなると難しい。具体的にしたいが現実的には対応できないというジレンマがものすごく大きい。
 では、どうすればいいか。一般的なことしか言えないですが、それはやはり、アメリカだけでもなく、日本だけでもなく、やはりASEAN地域全体としての意思を示していくことだと思います。
 
金子 ASEANも一枚岩ではないですから。
 
折木 経済関係が根底にあるので、なかなか容易ではない。
 アメリカ等の軍の艦艇が周回することによって、どれぐらいの効果があるんだといったら、やはり実効支配してしまったところが強いわけです。知恵を出し合ってやっていかないと、本当の中国ペースになってしまうと思います。
 それぞれの国が弱点をつくらないとか、一国だけではなくて、他の国と連携しているから自分の国が強く出て行けるとか、そういう後押し体制、協調体制をつくり込んでいくことだと思いますね。
 
金子 中国がさらに出てくるなら、直接それに対して何かするのではないけれども、フィリピンやベトナムへの支援は強化されますよとか、そういう見通しを持たせるという感じですね。
 
折木 アメリカがフィリピンと新しい軍事協定を結んで、スービック海軍基地を使うといった動きも出ていますし、そういう面は私は意義が大きいと思います。
 

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