折木良一(第三代統合幕僚長)×金子将史(PHP総研首席研究員)

_MG_0062
折木良一氏(第三代統合幕僚長)

2.複眼的な安全保障認識の必要性
 
金子 平和安保法制について国会やメディアで議論が盛り上がっている中で折木さんの『国を守る責任』が出版されたことは、非常に意義深いと思います。
 安全保障に関する本には、脅威ばかり強調するもの、逆に憲法の話ばかりであたかも脅威がないかのように語るものなど、極端なものが多いように思います。実態に即したバランスのいい本は意外にみあたらないのですが、スタンダードとも言える本がやっと出たなという感じがしています。
 私が読んで面白かったところの一つは、折木さんが統幕長になられるまで、自衛隊で様々なキャリアを積み重ねるのと並行して、国際情勢がいろいろ変化してきて、「この時自分はこの立場でこういうふうに思った」ということが書かれているところですね。自衛隊の内側から見た国際情勢といいますか、興味深く読みました。
 それから、軍事だけではなく、外交や国際政治全般を見通した上で、国を守ることを考えるという視点が一貫しているということ。こう言ってはなんですが、自衛隊出身者の方には、軍事はともかく、外交や国際政治の話になると急に突飛な議論になったり、そもそもそういう側面がないかのように論じたりということも多い印象です。しかし、この本はそうではなく、複眼的な視点で安全保障を論じています。
 
折木 この本の表題(『国を守る責任』)を見て、多分、読まれていない方は、「また自衛隊のこと書いてるな」とか、「軍事的なことを書いてるな」と思われるのではないかと思います。
 しかし、安全保障環境をしっかりおさえないと、そこまで議論を進めることができないと思います。ですから、その点についての自分の見方をまずお示ししようとしています。
 この本では、高坂正堯氏の「力」「利益」「価値」の三つの体系という考え方を取り上げましたが、やはり、先の大戦もしくはそれ以前の戦争でも、もちろん政治や経済も絡んでいましたが、現代に近づくにしたがって、様々な様相が一層複雑に関わりあうようになっていると思います。
 ですから、軍事だけで安全保障が方向づけられる問題ではない。それは私だけではなくて、自衛隊の教育もそういうふうになってきていますし、今の現役の人たちもそういう観点で考えてくれていると思います。もちろん専門集団ですから、軍事にウエイトをおくことは当然ですが。
 
金子 他方で、軍事的な側面は引き続き非常に重要であるわけですね。それは自衛隊でない人間には分かりづらい。この本では、軍事的な観点や分析が分かりやすく示されていますが、こうした知識を国民と共有していくことは自衛隊、特に自衛隊幹部が果たすべき役割でもあるなと思います。
 

関連記事