折木良一(第三代統合幕僚長)×金子将史(PHP総研首席研究員)

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金子将史(PHP総研首席研究員)

3.中国の攻勢にいかに対応するか
 
金子 折木さんは、情勢分析では相手の国の視点で見なければいけないということを強調されています。相手国ということで日本にとって特に大事なのは、中国、そしてアメリカでしょう。特に中国の台頭という地政学的現実や最近の中国の動きをどうごらんになっていますか。
 
折木 情勢を見る時には、相手の立場から見るのが大原則で、そうしないと、自分の都合のいい判断をしてしまうんですね。それがすべての過ちの元だと思います。
 中国については、私は2008年、あるいは2010年が転換期だったとみています。2008年というのは、中国の海軍が初めて津軽海峡を通過して日本を一周した年。2010年はGDPで中国が日本を抜いて世界第2位になった年。そのあたりから中国の対外的スタンスというのは徐々に変わってきた。
 軍事的にも、2008年くらいから非常に活動が活発になり、年を経るにしたがって、その動きがさらに加速されています。
 今は、よく言われている南シナ海で ――東シナ海も、中間線周辺のガス田の話が今騒がれていますが―― 自分の国の意思を実効支配という形であからさまに通そうとする、そういう転換期が来ている。それを周辺の国々、アメリカも含めて、今、問題視しているという時代だと思います。
 
金子 中国が軍事的、あるいは、海上保安機関なども含めて、強制力を使いながら出てくるということが一方でありますが、近著でも指摘されているように、中国共産党の最終目標は、体制の維持とか強化であると。
 そうだとすると、軍の動きに対して、単純に我が方も米軍、自衛隊でというだけではなくて、それは大事な要素だけれども、他の外交なり、他の国との関係といったところで、対抗の余地もいろいろあり得るということですよね。
 
折木 もちろんそうです。
 中国の最終目標は、共産党独裁体制を維持し、強化するということで、どうしても譲れない部分がそこであると思います。その上で次の目標は、アメリカと同等のあるいはそれ以上の覇権を確保するとか、いやいや、まずアジア地域をという風にステップを踏んでいくのでしょう。
 それでも、共産党独裁体制を維持するということがあり、国の仕組みというのはそれで成り立っているわけですね。それをふまえれば、我が国なり、アメリカなり、いろんな国の対応の仕方、方策というのはあると思います。
 
金子 中国の海洋進出は粛々とやっているように見えるけれども、体制維持、強化につながらないと思えばやめるかもしれない。
 
折木 やめざるを得ないか、逆にもっと国民の目を外に向けるために強引に進めていかなければいけないか。
 
金子 そのあたりを日本も十分把握しながら対抗していかなければいけない、そういうことだろうと。
 
折木 だから、情勢判断が最も大事だと思いますね。
 
金子 中国に関して、特に軍事的なところで一番これは注意しなければいけないというところは、どういうところですか。
 
折木 当面はやはり南シナ海だと思います。現在中国が進めている西沙・南沙諸島での実効支配が確立すれば、南シナ海全体に中国の航空・海上能力が及ぶことになります。日本にとってもシーレーン確保上大きな問題ですし、東南アジア諸国に対する軍事的影響は、政治的・経済的影響は計り知れないでしょう。
 一方、日本にとって直接的なのは、やはり東シナ海ですから、そこはよく注視し対応していかなければいけないことはもちろんです。
 
金子 よく聞かれる質問かもしれませんが、今の段階で、尖閣ですとか東シナ海で、中国と日本、あるいは、中国と日米の軍事バランスは、まだ日本側、日米側のほうが優勢であるというふうにごらんになっていますか。
 
折木 それは日米という捉え方をすると、まだ優勢だというふうに思っています。
 これは軍事力の量とか質だけの話ではなくて、どこに戦力基盤を置いて、どういう情報を取ってとか、いろんな要素を総合的に考えなければいけません。そういう面ではまだまだ有利だと思います。
 
金子 自衛隊と人民解放軍でいうとどうですか。
 
折木 ここは軍事力の根本的なところから違うんですね。というのは、中国の人民解放軍の場合は核兵器や弾道ミサイルを持っていて、自衛隊の場合はそういうものを全く保有していません。「では、どちらが強いんだ?」と白紙的に言われても困るのですが……。
 
金子 それはそうですね。
 
折木 ただし、個々の機能、海上自衛隊と海軍とか、航空自衛隊と空軍、それらを見ていけば、質的にはまだまだ自衛隊のほうが高いと思っています。
 

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