強い意志をもった楽観論で未来を切り拓け

牛尾治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)×永久寿夫(PHP総研研究主幹)

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5.自分の考えで決められる人を育てる
 
牛尾 増田寛也さんが座長を務めた「日本創成会議」人口減少問題検討分科会が、このままだと2040年までには約半分の自治体がなくなると発表しましたね。たしかに与件が変わらなければそうなるかもしれません。しかし、75歳まで働く納税者が増えれば高齢者福祉のコストは下がり税収も上がる。女性の管理職の数が2倍になって、給与も2倍になれば、女性の払う税金は4倍になる。さらに日本で働きたいというアジアからの優秀な学生を受け入れる。そうなったら、また違う未来になるはずでしょう。カギは、高齢者と女性と外国人です。
 
永久 先ほどの、地方に帰る人を増やすことと地方の活性化をセットでやればいいというお話は、冨山和彦さんが『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)で書いているL(ローカル)型、つまり、国際市場を目指すG(グローバル)型ではなく、地方の需要に合ったビジネスを展開する原動力にもなりえますね。その文脈で、地方の大学は、もっとローカルな需要に徹した教育をすべきだという話もされていますが、いかがですか。
 
牛尾 昔、一高から八高といういわゆるナンバースクールのほかに、地方に40ほどの旧制高校がありました。みな100人ぐらいしか採りませんから、地方のエリート養成校です。そこを出ると、ほとんど無条件で国立大学、帝国大学に入れました。そういう人が東京で大会社に入るわけだけど、最後は故郷からの期待に応えて地方に進出するんですね。だから、地方も旧制高校の学生を自分たちの宝として若い時から大切に育てるんです。
 もう一つは、旧制高校に学力的に入れない子や貧しい家の子は、工業専門学校とか経済専門学校に行って、卒業したらすぐ工場長や経理部長になる。そういう地域に密着した現業を勉強させていた。
もっと貧しいが優秀という子は、国鉄学校(東京鉄道教習所)とか郵政学校(逓信官吏練習所)などに入って、給料をもらいながら勉強する機会を得た。そこから労組の委員長などが出るわけです。
 さらに、海軍兵学校とか陸軍兵学校みたいに、ナンバースクールよりかっこよく、国に奉仕をする人材を育てる学校がある。終戦後、そういう人たちが帰ってきて、日本の大変革を導き、奇跡の成長をつくったわけです。
 こういう人たちは全体の2~3%ですよ。いま、大卒者の割合は60%ほどになっているけど、国や地方のことなどは考えずに、専ら終身雇用を求めているだけです。
 
永久 こうみると、G型、L型というよりも、むしろ多様な教育の仕組みが過去にはあったわけですね。
 
牛尾 もう一回、元へ戻したらいいんですよ。いま注目は科学技術大学です。豊橋科学技術大学と長岡科学技術大学では、高等専門学校を卒業した人のために学部3年から修士まで一貫したプログラムまである。ここにはアジアからの留学生も多い。就職率はほぼ100%です。僕はそこの学生たちにも奨学金を出しているんです。
 
永久 専門性と即戦力が身につきますよね。
 
牛尾 一方、最近の大学は哲学を勉強しなくなった。昔は、旧制高校でも大学でも哲学を議論したわけです。遊びもしましたが。哲学を勉強した人は、経営能力や指導能力がなくても意識が高いから、みなさん社会の一角で貢献してるんです。
 
永久 デカンショで半年暮らして、あとの半年は寝て暮らす、ですか。哲学的なもの、教養的なものが、経営者なり、政治家なり、あるいは市民としてのあり方なりを育てる基盤なのに、最近はそれが希薄になっているわけですね。アメリカなんかでは、依然としてリベラルアーツカレッジの評価は高いですよね。やはりそういうところを出た人の社会的貢献度は大きい印象です。
 
牛尾 本当に戦後を見直すなら、まずは教育制度からです。自立と自律ができる人たち、自分の考えでものを決めることができる人間を育てることです。そういう人たちが中核層として国をつくっていく。そういう姿がほしいですね。
 
 

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