強い意志をもった楽観論で未来を切り拓け
牛尾治朗(ウシオ電機株式会社代表取締役会長)
2.経済の繁栄にはすばらしい経営者を育てること
永久 安倍政権が消費税率アップを先延ばししたことも、3党合意の実現を鈍らせている印象をあたえますね。安倍政権は、これから何に取り組んでいくべきでしょうか。
牛尾 経済繁栄ですよ。デフレは日銀との非常にいいコミュニケーションで脱却したといえますが、これだけでは十分ではない。経済の繁栄には、やはりTPPを軸として、グローバルな展開をはかる必要がある。だから、安倍総理が五十数か国を周り、経済協力をひたすら訴えたことは評価できます。ですが、経済をよくするには、すばらしい経営者が育つことが必要です。そこがあまりうまくいっていない。
永久 その原因は、どこにあるのですか。
牛尾 成功した企業の大部分が旧態依然とした体制だということ。年功序列で定年延長となれば、よほどのことがなければ一生安泰です。抜擢も少ない。だから、若い人に全然元気がない。
永久 若い人たちには、イライラ感や不満がたまっているような感じがしますね。
牛尾 そういうところはまだいい会社ですよ。大部分は不満すらもたず、何もしない。昔はみなこぞって希望した海外勤務も、日本が余りにも住み心地がいいから、いまは誰も行きたがらない。留学生制度でも、高いときは5倍ぐらいの競争率があったのに、いまはウシオ電機でも競争倍率が著しく低下しています。給料を全部出して、授業料も出して、書籍代まで援助するのにですよ。昔はそうじゃなかった。修士号を取るのに、みな精一杯で、胃潰瘍になって留学から帰ってくるほど厳しいものでしたが、そういう社員がいまの会社の主力を占めている。
永久 厳しい競争に勝ち残ったから、世界標準で仕事ができるということですね。
牛尾 だから、東京大学でも、入学は難しく、卒業も難しくすべきなんですよ。僕はカリフォルニア大学に行っていたけど、バチュラー(学士)コースを卒業できるのは入学者の3割ぐらいでしたよ。
永久 そうですね。その代わり、逆もありますよね。勉強していい成績をあげて、コミュニティカレッジから編入してくる人間とか、まずは働いてお金を貯めてから大学に入る人間とか。いずれにしても厳しい競争や努力を求められる環境がある。
牛尾 教える側も同じでしょう。日本の大学の先生は基本的に終身雇用だけれど、アメリカは3年や5年契約。だいたい1割くらいの優秀な先生だけが終身雇用を保証されるわけです。最近、アメリカでも3割くらいに増やしているけど、日本の悪いところはマネしないほうがいい。