強い意志をもった楽観論で未来を切り拓け
永久寿夫(PHP総研研究主幹)
3.シルバーデモクラシーを払拭する
永久 日本のほうが治安もいいし、食事も美味しいし、居心地がいいから、若い人が海外に出たがらなくなりましたよね。だから国際的な競争にさらされない。国内でももまれない。
牛尾 しかも、母親が子どもを溺愛するからね。宿泊、洗濯、食事つきでずっと実家にいれば、結婚をする気にもなりませんね。
永久 それがある意味、日本の活力を低下させている。
牛尾 だから、大学に入学するくらいの年齢から競争にさらさないとだめです。今度の選挙権の18歳への引き下げは、彼らを競争にさらすという決意のあらわれです。
永久 選挙権が18歳からになったら、自分たちの利益を選挙で主張するようになる。それが政治を活性化させる。そういうお考えですか。
牛尾 いまは高齢者の利益が過剰に反映されるシルバーデモクラシーになっているわけです。退職者はもちろん、50歳以上で退職が見えはじめた人たちは、自分たちのために余計に税金を使わせること、つまりタックスイーター(tax eater)を目指し、積極的に選挙する。
永久 定年退職後は所得が激減するわけですから、それは合理的な選択とも言えますけどね。
牛尾 ですが、タックスペイヤー(tax payer)デモクラシー、つまり納税者による民主主義を確立しないと、支出が膨れ上がってこの国は破産してしまう。だから、これから納税していくという18歳から選挙権をもたせて、若いタックスペイヤーを中心に制度を整えていくと同時に、元気な人は75歳まで納税者になれる社会をつくる必要がある。
永久 ただ、いまでも若者の投票率は低いので、選挙権が18歳からになったとしても、実際は投票に行かないかもしれません。
牛尾 当面はそうだと思いますよ。しかし、社会福祉など高齢者対策ばかりに税金が回っていることが、次第に分かってくるはず。どこかで若い人が目覚めるのではないかと期待するわけです。
永久 そういう意味では、義務教育のころから、市民教育というか、世の中がどう成り立っているかをきっちり教えていく必要がありますね。
牛尾 そう。入学試験もそういうことを勉強しないと合格できないようにする。
永久 一方で、75歳まで納税者であり続けるというのは理屈ではわかるけれども、年齢と能力は必ずしも比例しないので、働く立場からも経営者側としても、しんどい面がありますね。社会的に適材適所ができるように、雇用の流動性を高めなければなりません。
牛尾 22歳で大学を卒業して、同じ会社に53年もいる、そんなバカなことはない。仕事は大体2回変わるようにすればいい。まず、22、20歳で就職する。そして35から40歳くらいで転職する。そのまま転職する自信のない人は、学校へ行ってもう一回勉強する。アメリカのMBAはそうやってできたんです。
永久 『Voice』3月号で書かれていましたけれど、2回目が50から60歳で、ボランティアや社会的起業なども含めて、自分のやりたいことをやる。
牛尾 定年制は高齢者のそうした可能性を迫害する制度なんです。だからなくせばいいんです。年功序列賃金もやめて、能力ある人に賃金を加算するような制度にすればいいんです。
永久 厚生労働省のいまの政策って、逆の方向に進んでいますね。
牛尾 まったく逆です。行政はみな、逆が多いです。