カンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――これまで活動をされていて、いちばん苦労したことと、またいちばん嬉しかったことはなんですか?
 
青木:僕、よく言うんですけど、あんまり昔のこと覚えてないんですよね。だいたいよかった、思い出はすべてよかった、みたいな(笑)。
 物理的に大変だったということはあります。たとえばお金がなくなりそうになったとか。学生の頃、IT事業で仕事が遅れて、発注元との関係が悪くなって多額の損害賠償を被りそうになるという失敗があったんですね。きちんと納品するために3週間泊まり込みで作業したりして大変だったんですけど、最終的にはその仕事をちゃんと最後まで終わらせることができました。当時の関係者に迷惑をかけたことはありますが、それもいまとなってはいい思い出の一つですね。年を経るごとに、あの大変な中でこそよく成長したなあ、と思い出が美化されていっているので、正直苦労したことはあんまり覚えていない(笑)。
 あとは、ここ3年間くらいのリーダーとしての旅は、辛かったような気がしますね。リーダーとしての自分のクセと問題点と、それに対する諦めみたいなものをもてるように割り切ったりしながら進んで行く過程が大変でした。
 
――それでも、辛かった「ような気がする」(笑)。
 
青木:いやいや、大変でしたよ(笑)。
 スタッフが辞めてしまうこともありましたし。やっぱり創業者として組織の真ん中にいると、よくも悪くも自分のクセが組織の限界をつくる部分があるということを痛感しました。もちろん一方で自分のいいところが組織を伸ばしているところもあると思うんですけど。
 リーダーたるもの、本当はこういうことを身につけなければいけない、こういう存在でいなくてはいけない、けれど自分にはそれができない、とか。部下にも自分はこういうリーダーであるということを認識してもらった上で、役割分担してやっていくという方向にモードを変えていけるまでの関係づくりはけっこう大変でしたね。「もう辞めます!」とか言われたり。「あなたは私の求める理想のリーダーではない!」と(笑)。そういうことはありましたね。
 
――青木さんのおっしゃるご自身のクセというのは?
 
青木:ビジョンを示して先頭に立ってみんなを力強く引っ張っていくとか、メンバーをケアしてモチベーションを上げていくといったリーダー像を求められても、僕はそういう感じではないんですよ。
 最近よく言っているのは、僕のリーダーシップは「港」スタイルだということです。「船長は君たちです。僕は港だから、ときどき帰って来てね」と。僕も船に乗ったりしますが、どちらかというと、メンテナンスしたり、お互いの情報を共有・交換したりして、みんなが行きたいほうに行けるように一緒に船をつくって送り出すイメージです。
 みんなが船長としていきいきとやっているかどうかが僕にとっていちばん大事なことであって、カンボジアの女性たちに対して僕が思っているのと同じ思いや願いを、かものはしのマネージャーのみんなにも持っている。自分はそういうリーダーなんだなと思っているので、僕自身は引っ張らない。むしろ港なので止まっているくらい(笑)。
 そういう自分自身のリーダー像が僕の中でも明確になってきて、僕の思いや考えているもの、おぼろげながらも存在するビジョンといったものをみんなに共有しながら、関係性を丁寧につくっていく中で、経営チームとしてワークするようになってきました。
 大変だったこととして質問頂いて話し始めたはずなのに、実はこれがいちばんうまくいったことでもあるんですね。この1年半くらいの間にカンボジアの経営チームが激変して、すごく機能するようになったんです。いままでは「青木さん、次はどうしたらいいですか?」「今日は青木さんが出社しないんだけど、どうしよう」という感じで、みんなが僕を頼るし、僕もそれを抱え込んでしまうし、それが辛くてなかなかパフォーマンスが出せないしみたいな悪循環があったんですが、今はチームの一人ひとりが自分で考えて、「チームとして一緒に経営をやっていく」という感覚を持てるようになってきた。
 現在コミュニティファクトリーの経営チームには日本人3人とカンボジア人2人がいるんですが、それがこの1年半で最もうまくいったことですね。
 
――かものはしやコミュニティファクトリーのメンバーに限らず、楽しくいきいきと働ける環境をつくるということを、一貫して大事にされているんですね。
 
青木:そうですね。組織の中でも外でも、それをいちばん大事にしています。
 もうひとつ、自分にとって大事な価値観のひとつに、いつでも丸腰でいられるかどうかというものがあります。生きていく上では、武器を持ったり鎧を着たりすることも多いじゃないですか。例えばリーダーとしてのあるべき姿ってどんなものだろうとか、外的な役割として求められるものも生きていく中で身につけていきますよね。そういう武器があるから物事を早く判断できたり、素早く処理することができたりしてうまく日々を生き延びている。そういう意味で武器や鎧を持つこと、それを磨いていくことは大事なことだと思うんです。
 でも、その武器や鎧に振り回されてしまったり、自分のありのままの姿とは実はかけ離れてしまってきていてエネルギーをだんだん消耗していくときもあります。とくに、人と対峙して寄り添って関係を作ったり、痛みも含めてアドバイスをきちんと受け止めなければいけなかったりというときにはその鎧が邪魔になるかもしれません。相手はその人がどこから喋っているのか、自分の言っていることを心で受け止めてくれているのか、ということにとても敏感ですから。
 だから、自分の武器を否定する必要はないのですが、その武器や鎧にできるかぎり自覚的であって、人と向き合うときにはそれらを外したりもできるということも大事だと思うんです。自分自身の心とつながって、身ひとつで人と向き合える強さや成熟みたいなものを持てるかどうか。成熟と言うより未熟な自分を割り切ってその場に出せるしなやかさ、ということかもしれません。そういうしなやかさをもって生きていけるかどうかということを、自分自身にも問うているし、みんなにももっとそうなってもらえればと思います。
(第三回「商品を通じて、エネルギーと応援を届けたい」へ続く)
 
青木 健太(あおき けんた)*2002年、東京大学在学中に、「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。
 
【写真:長谷川博一】

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