カンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――現地のパートナー団体や警察と協力し合って、売買春の摘発などにも取り組まれてきたそうですが、不思議に思ったことがあります。たとえば、現地のホテルから通報する仕組みをつくられたそうですが、そうした子どもを買って連れてくる人というのは、ホテルからするとお金を落としてくれるお客さんになるわけですよね。そう考えると、ホテル側というのは、どういうモチベーションで協力をしてくれるのでしょうか。やはり影では心を痛めていたということですか?
 
青木:当時の活動のひとつにホットライン事業というものがありました。人身売買の被害をみたら通報できるように電話番号を様々な場所、特にホテルなどに掲示していこうという事業です。その中で、私たちが直接ホテルと交渉したのではなく、警察への支援を通じて、その部分が強化されていきました。
 たしかにホテルも対応が分かれて、そういうことをまったく気にしないどころか、むしろホテルの従業員が斡旋しているようなケースもあったと聞いています。とはいえ法律や世の中の流れというものがやっぱりあって、たとえば「それは法律的に許されないので発覚すれば営業に問題が出ます」とか、「そのホテルの人たちが捕まります」というような話になってくると、ホテル側もこれはまずいということで協力してくれるようになってくるわけです。
 やはり法律が浸透してきたり、それに伴って取り締まりが強化されていけば、ホテル側の意識も変わる。そういうインセンティブですね。
 
――どちらかというと、ホテルの人々の良心に訴えてというよりは、制度側から縛りをかけていって、という感じだったんですね。
 
青木:そうですね。私たちのカウンターパートである内務省とか、警察の方々がかなりがんばってくれて。それに加えて現地NGOの啓発活動もあって、結果としてそうなっていったと。
 
――警察に対する支援というものは、かものはしプロジェクトが始めるまで、ほかの方々はあまりやっていなかったんですか?
 
青木:そんなことはないですよ。むしろユニセフさんとかワールドビジョンさんといった大きな団体が連携してつくった枠組みに、僕たちが途中から入って行ったような感じです。予算額とかも全然違うんですが、その一連の取り組みの中で、僕たちは内務省を支援して、警察のトレーニングをするという部分に参加したと。やっているうちに、気づくと最後は僕たちしか残っていなかったんですけど。
 
――最後にはかものはしプロジェクトしか残っていなかったというのは?
 
青木:僕たちも完全には理解していないんですけど、ひとつは、国際NGOの活動にもトレンドのようなものがあって、担当者が代わったら重点施策が変わるとか、イシューやお金の出し方が、そのときどきで大きく変化するんです。私たちが参加していたのはもう10年くらいやっているプロジェクトで、かものはしが参加していたのは後半の5~6年くらいでした。その活動自体が長かったということもあって、最初は華々しく成果が出て来たけれども、だんだんと収束点が見えてくる。違う分野にもお金や力を割いている方々なので、そういう状況を踏まえてのやりとりや駆け引きがあったんだと思います。子どもが売られるという問題は、2011~12年頃をピークにどんどん改善がみられて、カンボジアから撤退する団体も出てきていましたから。
 
――もう大丈夫だろうと思って、支援のリソースをほかの地域や分野に回すために引いていく。
 
青木:そうですね。「カンボジアも発展してきているから、あとは自分でやれるよね?」というようなスタンスの国際機関もあったし、NGO側からしても助成金を受け取るにも、アフリカとか違う地域のほうが予算を獲得しやすくなっていたりといった変化があったのが、2013~2014年頃ですね。また一方で注目すべき事としては2011年くらいから、企業のカンボジア投資が劇的に増えたんです。カンボジアの民間の経済発展は、その辺りからより顕著になっています。
 
――それは、何があったんでしょうか。
 
青木:日系企業の間でもカンボジア投資元年とか言われていたんですけど、理由はいくつかあったように思います。ひとつはカンボジアの経済が安定してきて、インフラ的にも法律的にも、いろんな意味で徐々に準備が整いつつあったこと。そうした現地の発展を受けてだんだんと企業がカンボジアに来るようになってきました。
 ふたつめには、たしか2008年から2011年くらいだったと思うんですけど、中国とかタイとか、どちらも人件費が高くなりすぎてきていた。コストが合わなくなる中で、チャイナプラスワンとか、タイプラスワンということで、次の展開国を探す企業が増えてきた。東南アジアでいうと、候補地としてはカンボジアとミャンマーの二択みたいな状況で、ミャンマーがまだそこまで発展していなかったこともあり、カンボジアに進出する企業が一気に増えたんです。

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