カンボジアの支援終了とコミュニティファクトリーの独立

かものはしプロジェクト 共同代表 青木健太 (聞き手:PHP総研 山田花菜)

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――かものはしプロジェクトが目指すのは、「子どもが売られない世界」ということですが、その前提として、「こういう社会になっていたら、子どもが売られなくなっている」という社会の状態としては、どんなものをイメージされていますか?
 
青木:それは地域別にありますね。「インドではこうなれば子どもが売られなくてすむんじゃないか」「カンボジアではこうなれば子どもが売られなくてすむんじゃないか」という僕達が思う社会変革の仮説、つまりセオリーオブチェンジがそれぞれにあります。でもそれは、同じ地域の中でも、個別の事情や状況の中でどんどん変わっていくので、活動しながら深めていっているという感じです。
 たとえば、最初に学生で始めたときは、「基本的にほかに仕事がないから子どもが売られてしまうし、貧困とか教育の問題が大きいから、そういうところにアプローチしなきゃいけない」と思っていたんですけど、たとえばカンボジアの事業でいうと、貧困や教育の課題を解決するよりも、児童買春のなくなるペースのほうが早かった。
 だから、貧困や教育の課題を解決することは、子どもが売られない世界をつくるための十分条件ではあるけれど、必要条件かと言われると違うんじゃないかなと思うんですね。法律とか警察というアプローチがときにすごい早さで効くこともありますから。
 そう考えると、どういうふうにやったらこの問題がなくなるのかといったことは、ひとつに決まった答えがあるわけではなくて、常に調査し続けながら考えていかなければいけないんだなと思っています。
 もっと難しいのが、そもそもその問題がいま存在しているのかしていないのか、非常にわかりづらいということ。児童買春、性的な人身売買という問題の特徴として、アンダーグラウンドで起きているため信頼できる統計などほぼ無い状況でした。
 
――では、カンボジアでは児童買春の問題の改善状況は、どういう指標で判断されているんですか?
 
青木:正直苦労しながらですが、大きく分けてミクロ的なものとマクロ的なものをそれぞれ見て慎重に判断しています。ミクロ的なものとしては、いわゆる売春宿や被害者を受け入れるパートナーのシェルターの様子を調査する中で、たとえばシェルターで保護している人のうち、この問題の被害者が何%を占めているか、などを追ってきました。昔は本当に性的な人身売買の被害者が来ることが多かったあるシェルターも、いまではDV(家庭内暴力)やレイプの被害者が増えていて、2012年くらいからそちらの被害者の方が多くなっている。それはやっぱり、状況がだいぶ変わってきたということ。ほかにもパートナーの警察の人身売買特別対策局から最近の事件のトレンドなどを常に情報収集したり議論するように努めていました。
 とはいえ、やっぱりそれだけではわかりづらいところもあって、被害の形態が変わったりすることもあるんですよね。売られる形態といった犯罪の方式が変わるとか、起きている場所が変わるとか。ミクロだけだとそういうのを逃してしまうこともあるので、就学率の変化や、経済的な発展の様子もマクロ的に見ていきます。
 それに加えて大事だったのはやっぱりほかの団体とのやり取りですね。国際NGOの中でもこの問題の解決に取り組んでいる団体には、調査力も高く信頼できる団体もあり、そういう団体との議論や調査報告も参考にしてきました。そういった様々な情報をうけとりながら、自分たちの中で十分議論していくというスタンスです。
 それでも最終的には安心できない、というと変ですけど、いまはカンボジアでは一旦児童買春の問題は解決に向かっているように見えるけど、貧困とか教育の問題は残ってるから、いつ揺り返しがくるかわからないな、と思ったりするわけですよね。3年後蓋を開けてみたら元に戻っていた、なんてことは望んでいない。そういうリスクも考えて、すごく慎重に判断するということをやってきました。

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