子どもたちの意欲を育む大人の関わり方
――自立ナビゲーターの方は、皆さんボランティアということですが、ボランティアの方々に対する研修やメンタリングもされているんですか?
林:メンタリングとはちょっと違うんですが、研修はやりますし、「いま、こんなことで困っている」といった悩みを相談しあう場を設けています。
――ボランティアに参加されるのは、どんな方々ですか?
林:モチベーションで圧倒的に多いのは、「子どもたちの役に立ちたい」「社会の役に立ちたい」というものですね。少数ですが、「自分の持っているスキルを生かしたい」「自分自身が成長したい」「新しい仲間をつくりたい」という方もいらっしゃいます。
年齢は20代から70代まで幅広いです。自立ナビで子どもたちから人気があるのは、やっぱり若い世代ですね。あんまり年齢が離れると、話がかみ合わなくなりがちなので。
子どもたちと年齢の離れたボランティアの方々には、「巣立ちプロジェクト」で活躍していただいています。実際社会に出てみたらいろんな年齢の方がいるし、コミュニティに多様性があるってすごく大事なことだと思うんです。だから「巣立ちプロジェクト」は子ども15人がなら、大人も15人とか、子どもと大人同数でチームを組んで、セミナーをやるんです。子どもたちにとっても、いろんな年齢、いろんな職業の人からいろんな話を聞けるのは、おもしろいことだと思うんですよね。
そうして施設を退所して本当に社会に出る前に、プチ社会体験というか、知らない人たちと出会って関係をつくっていくプロセスを経験するということを大切にしたいので、ボランティアにいらっしゃる方々に、「こういう人じゃないとだめ」といった条件はつけていないんです。「やりたい」と言ってくださる方は、基本来る者拒まず。ただし、「内容によっては子どもが選ぶので、それで選ばれなかったらごめんなさい」ということは、予めお伝えしています。
――なるほど。当事者性をもってボランティアに参加される方もいらっしゃいますか?
林:たまにですが、います。その多様性も受け入れたいと思っているんですが、そうすると、私たちが応援してきた子どもたちが、ボランティア活動として参加したいということも出てきます。そこは難しいなと思っていて。これからの課題ですね。
――同じ経験をしている分、子どもたちの気持ちをすごくよくわかって寄り添ってあげられそうだと思っていましたが、そんなに単純ではないということでしょうか?
林:そこは少し複雑で、私たちが活動の初期に応援していた子たちはいま20代後半に差し掛かっていて、中には少しずつ余裕が出てきた子もいます。自立したらまずは自分自身のことをちゃんとして欲しいんですが、余裕が出てきたら、「私もそうだったよ」という先輩として、どんどん後輩たちとかかわってほしいなと思っている反面、当事者だからこそ陥りやすいリスクというものもあるんですね。
たとえば、自分自身の自己肯定感や存在意義といったものを、ボランティア活動で埋めようとすると、依存関係になりやすい。子どもにあれこれやってあげて、求められることに喜びを感じてしまうとか。「なんでもやってあげる」というのは、私たちが目指す自立支援とは違うんですが、そういうリスクは当事者のほうがもちやすいんです。
また、自分と子どもを重ね合わせ過ぎて、「この子は自分とは違う存在」と捉えにくくなってしまうこともあります。「自分はこうだったから、この子もそうに違いない」とか、「自分はこうしたのに、なんでこの子はこうしないんだ」とか。
だから、施設によっては施設出身者は職員として採用しないという方針のところもあると聞いています。
――現在全国に約600の児童養護施設があるということですが、施設ごとに人数の規模などの環境も方針も全然違うと聞いています。ブリッジフォースマイルの活動は、それぞれの施設との連携で取り組まれているのですか? それとも行政との連携で、地域まるごと?
林:行政から受託しているものもありますが、基本は施設ごとに連携してやっていくスタンスです。児童養護施設の職員との連携はすごく大事だと思っているので、行政からの受託で活動する場合にも、「この施設の担当スタッフはこの人とこの人」というように、施設ごとに担当を決めてやっています。
たとえば、自立ナビでボランティアさんから、子どもたちの様子について報告が上がってきますよね。「この子はいま、こんなことで悩んでいます」とか。プライバシーの問題もあるし、なんでも筒抜けにして子どもたちがしゃべりたくなくなってしまうといけないので、全部を詳細にというわけにはいかないんですが、「これは問題の芽だな」と感じたことについては、職員の方と共有して、「いまこういうことで悩んでいるようなので、そちらからもサポートをお願いできますか?」というお願いをするとか。
――どのようなかたちでやっていても、結局はブリッジフォースマイルのスタッフと施設の職員の方々との、人と人とのつながりが大切ということですね。
(第三回「企業が良心を持って行動すれば、社会はきっとよくなる」へ続く)
林 恵子(はやし けいこ)*1973年、千葉県生まれ。大学卒業後、大手人材派遣会社パソナに入社。子育てとキャリアの両立に悩む中参加 した研修をきっかけに児童養護施設の課題に気づき、2004年12月、「ブリッジフォースマイル」を設立。2005年6月にNPO法人化し、パソナを退職。養護施設退所者の自立支援、社会への啓発活動、人材育成を活動の3つの柱とし、さまざまなプログラムを提供している。
【写真:遠藤 宏】