子どもたちの意欲を育む大人の関わり方

NPO法人 ブリッジフォースマイル 代表理事 林恵子

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――発信の方針を変えたことで、寄付やボランティアなど、支援者の質や層、数に変化はありましたか?

:それが、「かわいそう」と言っていたときは、比較できるほど寄付もボランティアも集まっていなかったんです。

――それだけが理由ではないとは思いますが、現在は登録ボランティア300人超ということを考えると、切り替えて成功だったんですね。

:よかったと思います。とくに、「カナエール」というプログラムを5年前から始めたんですが、これは「かわいそう」を強調していては、できなかったものです。

 児童養護施設の支援で難しいのは、子どもたちのプライバシーの問題。偏見や差別にさらされるリスクをはらんだ子どもたちですから。それこそその生い立ちには辛いものがあって、それを皆さんに知って理解していただきたいという思いがある一方で、それを明らかにすることで、その子の人生がどうなるかということを考えると、どうしても慎重にならざるを得ない。それをおっかなびっくりやっていたのを、大きく転換したのが、この「カナエール」のプログラムです。

 「カナエール」は、施設退所後に大学や専門学校に進学する子どもたちを支援するための奨学金プログラムで、スピーチコンテストへの出場を条件に返済不要の奨学金を給付するというものです。スピーチでは自分の生い立ちを語る子もいれば、過去には触れずに将来の夢を語る子もいるんですが、「どうして進学したいのか」という思いを観客に直接伝えて、支援者になってもらうことを目指しています。

 施設で子どもたちと触れ合うようなボランティアをしていれば別ですが、そうでない方からすれば、当事者の生の声を聞く機会って、なかなかないんですよ。ですからこれはすごく思い切った方向転換だったんです。当事者の顔を見せるということがとにかく避けられる傾向にあった中で、「カナエール」は300人を超える応援者の前に立って自分の思いを語るというプログラムですから、始めるときにはやっぱり「子どもを見世物にするのか」という反対意見もありましたし、「人前でスピーチできるような子は施設にはいない」と言われたこともあります。「子どもを守る」という意識が強いところほど、「生い立ちを語るようなことをして、フラッシュバックでも起きたらどうするんだ」というようなリスクを挙げて、否定的な反応でした。言われていることも理解できるし、リスクを考えるとキリがない中で、「カナエール」のプログラムを断行するということは、とても大きな決断だったと思います。

 ですが、それまでの5年間で、私たちは子どもたちの持っている力や可能性の大きさを感じていました。それを発揮しないままにしておくのは、もったいない。自身の生い立ちを人に語ることで子どもたち自身の感情が整理されていくという部分もあるし、オープンにすることで「もう隠さなくていいんだ」と、却って生きやすくなる面もあるだろうし。「生い立ちの整理」と呼ばれる支援のノウハウのひとつなんですが、自分の過去をポジティブに捉え直すことができると、溜まっていたネガティブな思いがどんどん消化されていくんです。そうした効果もあるし、なによりもここで支援者を集められないと、奨学金が途切れてしまうよ、と。そこもこのプログラムの肝なんです。奨学金で進学の支援をしていくことに決めたとき、お金集めは当事者にも協力してもらおうということも決めて、奨学金の原資にはコンテストの入場チケットの販売料とプロジェクトへの寄付金を充てています。奨学金は毎月3万円で、寄付は一口2,000円でお願いしているので、15人のサポーターでひとりの奨学生を支えるイメージです。

「カナエール」を始めてから5年が経ちますが、いまでは皆さんに受け入れていただけているのを感じています。

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