大学合格者数のその先に、e-Educationが目指すもの
――いま「当たり前」とされている学校の状態とは違うというだけで、当たり前=ベストとは限らないということですね。過疎化が進む地方の学校もそうですし、フリースクールなど、学校の外で学習機会を求めている子どもたちにも、展開や応用ができそうです。
三輪:よく、若者、よそ者、ばか者によって社会が動かされてイノベーションが起きるっていいますよね。イノベーションは弱者や地方から起こる。その片鱗を私たちは途上国でも見てきましたし、日本でもそういう動きはたしかに生まれ始めています。
私が島根で訪れた吉賀町は、小学校から高校に至るまで複式学級化がどんどん進んでいます。中学、高校と一気に学習量が増える時期に、複数の学年をまたいだ授業を受けるということが、地方だとこれから当たり前になっていきます。学校の統廃合を繰り返して、一定規模の生徒数を保つという考え方もあるとは思うんですが、学校が減ったことで、自転車で片道1時間半の通学時間をとられたりしているケースもあります。だったら、家の近くに複式学級の学校があるほうが、よほど通学時間分を勉強に充てられますよね。
私は島根のプログラムを通じて、私がバングラデシュをはじめとする途上国でやってきたことと、日本の課題との接点がうまくつながってきたように感じています。
最近、試行的に、e-Educationに通うバングラデシュの子どもたちと、日本の高校生たちをスカイプでつなぐ授業をやってみたんです。文部科学省のスーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)に指定されている埼玉県の浦和高校、ここは東大合格者数が全国の公立校で最多となることも多い全国屈指の進学校なんですが、そこの生徒とバングラデシュの子たちをスカイプで交流させたんです。授業後、浦和高校の子たちからは、「僕らと同世代でがんばっている子たちに刺激をもらった。自分たちも負けていられない。絶対東大に行きます」っていう感想がばんばん返ってきました。彼らのやる気に火がついたこともうれしかったし、実は、バングラデシュの子たちがものすごく自信をつけたんですよ。
日本でトップクラスの高校に通う生徒たちと、対等に話すことができた。認められて、褒めてもらえた。日本のトップの同世代の子たちと並ぶ力を、自分たちは持っているんだって。実は途上国側にも自信とやる気に火がついたんです。
――素晴らしい相乗効果ですね。
三輪:私が高校時代に見た悪夢のような授業風景から一転して、そこで私が見たのは、誰もが幸せになっている光景でした。浦和高校の先生も、バングラデシュの先生も、ものすごく喜んでくれて。このプログラムは浦和高校と親しいNPO経営者から声をかけていただいて実現したんですが、SGHは、グローバル人材や社会の課題を解決できるようなリーダーを育成したいという文脈のプログラムだということで、大半の学校が先進国ではなく途上国を交流やなんらかの研究の対象としているようなんです。e-Educationスタッフの薄井や吉川にもいろいろと相談が来たりもしているようなので、他校にも展開していけるといいなと考えています。
実はこのプログラムのヒントも、マザーハウスでのインターンにあるんです。マザーハウスはバングラデシュでバッグをつくっているのですが、工場にお客さんを呼ぶという珍しい取り組みをしています。マザーハウスのバッグを購入したお客さん向けのツアーをHISと提携して組んでいるんです。製造業の工場で働いている人がエンドユーザーの顔を見ることは普通ないと思うんですが、日本から来たお客さんが、自分たちがつくったバッグを手に、「素敵なバッグをつくってくれてありがとう」「もう4年間愛用しているけど、まだまだ使えますよ」といった言葉をかけてくれる。それを聞いて、うれし涙を流している工場の子たちを見てきました。それで、途上国の人たちと日本の人たちをつなぐことって、そんなに難しいことじゃないんじゃないか、という思いは、ずっと持ってきたんです。
途上国の可能性に目を向けていくと、きっとその先は日本の課題にも結び付いていく。たとえばJICAであったら、それが「途上国のために」どう役立つのかというところにこだわらなければならないんですが、その垣根を飛び越えて相互作用を追求できるところが、NGOの醍醐味だと思います。
(第4回「No.2を目指す人を増やしたい」へ続く)
三輪 開人(みわ かいと)*e-Education代表理事
1986年生まれ。早稲田大学在学中にバングラデシュにて税所篤快氏と共にNPO法人e-Educationの前身となる活動を開始。予備校に通うことのできない高校生に映像教育を提供し、大学受験を支援した。大学卒業後はJICA(国際協力機構)に勤務しながら、NGOの海外事業総括を担当。2013年10月にJICAを退職し、e-Educationの活動に専念。14年7月同団体の代表理事就任。
【写真:遠藤宏】