大学合格者数のその先に、e-Educationが目指すもの

NPO法人 e-Education 代表 三輪開人

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――もしかすると、複式学級での映像授業を用いた学習というのは、ある意味で最先端なのかもしれませんね。1クラスに30人くらいの生徒がいて、そこに先生がひとりついて30人に向けて授業をするのが、ほとんどの学校で採用されている「当たり前」のかたちとされていると思うんですけど、30人もいれば、絶対に学習進度にばらつきがある。多くの場合、先生はクラスの中間層に合わせて授業を行うと思うので、トップ層はつまらないし、下位層はついていけないし、という状態になりがちだと思います。このことを考えると、その島根の高校での取り組みは、本当の意味で一人ひとりに合わせた授業であって、すごく進んでいるという捉え方もできるような気がします。
 
三輪:少し時をさかのぼるんですが、高校時代、いまでも忘れることのできない光景が教室にあったんです。私の学校はもともと進学校だったので、2年生の終わりくらいからだいたいみんな予備校に通っていて、春休みが明けて3年生になる頃には、3年生の夏くらいまでの内容を先取りしている子が多かったんです。予備校組は授業のはるか先をいっているので、学校の先生の授業の中身には興味がない。一方で、私のような野球小僧や部活生は、夏の大会が近いので、授業中はずっと寝ているか、弁当を食べている(笑)。
 
 窓際の一番後ろに座っていた私が見た最悪の光景は、寝ているか、弁当を食べている部活生たちと、一人黙々と自分で問題集を解いている予備校組の生徒たち。そして、そんな生徒たちに申し訳ないのか、一度も生徒を振り返ることなく、黒板に向かってチョークを走らせている先生。県でトップ10に入る進学校だったはずなのに、あの光景はどう考えてもおかしい。誰も幸せになっていない。せめて、予備校組のトップ層に合わせて授業をやっていたら、彼らは授業を聞いていたと思います。部活生だった私たちだって、補修プリントでもつくってくれたらやるし、部活を引退してから真剣に勉強しますから。
 
 きっと誰一人満足していない絶望的な時間が、しかも毎日毎時間流れているのを見て、だめだ、予備校行こう、と思いましたね。きっと、いまでも絶対そういう光景ってあちらこちらにあると思うんです。東進に通ってなにがよかったって、自分のペースで勉強できることだったんです。クラスの進度に必死になってついていくのではなくて、自分自身のペースで勉強できるという特徴が、映像教育にはあった。アツ(税所篤快)も、学校の先生がささやき続ける魔法の呪文のような言葉をひたすらノートにとる振りをしながら、カンボジアに井戸をつくる方法を考えたりしていたらしいんです。彼にとっても、学校の席に座っている時間はけっこう苦痛だったそうです。その気持ちは、自分の経験からも、すごくよくわかる。だから、私が訪れた島根の高校のような学校は、都会の多くの学校では一学年に100人も200人もいるのが当たり前ということと比べると、大変な状況なようにも見えますが、実は学習環境自体はよほど恵まれているようにも感じるんです。

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