諦める理由より、諦めない理由を多くつくりたい

特定非営利活動法人 3keys 森山誉恵

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写真提供:3keys

「誰も悪くない」問題だからこそ
 
 スタートはふたつのサービスからだった。
 
「ひとつは、進学などの目標のある子の勉強をサポートする、中高生向けの家庭教師型指導サービス。もうひとつは、小学生向けの教室型指導サービスで、学年ではなくて習熟度別に国語と算数の基礎を積み上げ直せるようにしました」
 
 子どもたちに効果的な学習サポートを提供できるよう工夫する一方、ボランティアに若い人を巻き込む方法も考えた。
 
「これまでの地域活動やボランティア活動はもともと児童福祉や教育にとても興味がある方しか関わっていなくなっていたり、高齢化問題も抱えていた。慢性的に人手不足で偏見も広がりつつある中で、もっと多様な人たちに問題意識を届けるためには工夫が必要と感じました」
 
 ボランティアの募集が公民館でしか行われていない場合もあった。それでは公民館に足を運ぶごく限られた人たちにしか情報は届かない。次の世代に引き継がれないままに彼らが引退してしまえば、現場からは誰もいなくなり、若い世代の理解はますます進まなくなってしまう。
 
「だから、、SNSなどインターネットを通して参加を呼び掛けたり、情報を発信したりしています。3keysに登録している学習支援のボランティアは500人くらいですが、学生と社会人が半々くらい。18歳から60代まで、幅広い年齢の方がいらっしゃいます」
 
 昨年度の登録者は、学生よりも社会人が多かったという。子どもたちも部活やアルバイトがあるので、学習サポートを行うのは平日の夜7時以降や土日。残業が少なめのビジネスマンや公務員が積極的に参加している。
 
「ただ、やっぱりボランティアのがんばりだけでは足りないので、そのことを社会に発信して、制度の見直しなどにつなげていかなければいけないなと思っています。児童福祉に関心のある人をボランティアや寄付のかたちで巻き込むだけでは今までとそう大きく変わらない。そうではない人にいかに情報を届けるか、いかに当事者意識を持ってもらうか、といった取り組みにも力を入れています」
 
 そのための取り組みのひとつが、チャイルドイシューセミナー(CIS)。子どもを取り巻く問題を、「家族」「地域」「学校」「仕事」「政治」の5つのテーマから考える連続セミナーだ。テーマごとに毎回代わる講師は、鈴木寛氏、湯浅誠氏、出口治明氏、高濱正伸氏といった人々が務めてきた。
 
「3keysのことを知らないとか、子どもの貧困や格差問題に興味や実感はないという人でも、『この人の話は聞いてみたい!』ということで参加してもらって、問題の存在やその根深さを知ってもらうきっかけになったらいいなと。会場も、たとえばマイクロソフト社さんにお借りしたりして、ちょっと行ってみたいと思ってもらえるような仕掛けを考えています」
 
 セミナーでは、参加者の身近なことを子どもたちの問題につなげていく作業を行う。一人ひとりの働き方や企業のワークライフバランスへの考え方、近所づきあいの希薄化などの地域社会のあり方の変化、大人たちの政治に対する姿勢といったものが、子どもたちにどう影響しているのか。児童福祉とは一見関係がなさそうな日常生活のひずみが、回りまわっていちばん弱い子どもたちに跳ね返っていることに気づかせる狙いだ。
 
「子どもの問題は、誰か明確な悪人がいるのではなくて、みんなが悪気なく日常生活を送っている中で起きているものなので、当たり前になっている生活や考え方を見直してもらえるようになったら」
 
 3keys発で開催するセミナーのほかにも、大学の授業や、企業のCSR部門での講演依頼など、発信の機会は確実に増えて来ている。(第二回「子どもの成長をみんなで見守る社会に」へ続く)
 
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森山 誉恵(もりやま たかえ)*1987年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。大学時代、児童養護施設で学習ボランティアを開始。在学中に学生団体3keysを設立。2011年5月にNPO法人化し、代表理事に就任。同年社会貢献者表彰。現在は現場の支援に加え現場から見える格差や貧困の現状の発信にも力を入れている。

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