諦める理由より、諦めない理由を多くつくりたい

特定非営利活動法人 3keys 森山誉恵

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一生懸命努力しても広がるギャップ
 
 児童養護施設で暮らす子どもたちの進学状況を見ると、高校進学率は約95%ではあるものの、全国の中学校卒業者の98%と比べるとやや低く、7.6%の高校中退率は平均の約3倍。さらに、大学進学率は12%台と、全国平均の4分の1以下にとどまっている。さらに児童養護施設に保護されていない子どもたちの実情はまだ正確に把握すらできない状況。
 
「私は大学の費用を当たり前のように親に出してもらいましたけど、親がいろんな形で援助できない子どもたちは高校生のときから100万円単位で貯金をしないと、大学や専門学校に行けない。だから修学旅行も行かずにお金を貯めていたり、クラスメイトが受験勉強だけに専念している間もアルバイトを掛け持ちしたり、奨学金の申請をしていたりする。そうした状況が続くと、一生懸命がんばっているのに他の子たちとどんどんギャップが広がって、諦めの気持ちが強くなっていってしまうんです」
 
 逆境をバネにできる子もいるが、それはほんの一握り。経済的な支援も十分に整っているとは言い難いいまの状況は、意欲の低下を招くことが圧倒的に多い。
 
「そうした状態に慣れてしまった子どもたちは、結局自分はなにをしてもだめだと思うようになってしまうんです。『どうせ自分は児童養護施設育ちだから』とか『どうせ親に見捨てられたから』とか、そういうところにしか結論を見出せなくなって、大人になって社会に出てからも、ずっとその枠に自分自身をはめて生きてしまうんです」
 
 当時慶應義塾大学の学生だった森山さんの周りには、そういった現状を知っている人はほとんどいなかった。たとえば小学校から私立に通っていると、施設で暮らす子どもに出会ったことすらないということも珍しくない。
 
「私が通っていた公立中学校にもきっといたと思うんですけど、高校、大学と進学する中で、私も忘れてしまっていました。でも、そういう問題があるという認識も想像力もないまま大学を出た人が、社会で人の上に立つことになるのは問題があるんじゃないかと思いました。それで、せめてみんなに知ってもらいたいと思って、大学の友人などに呼び掛けて3keysを立ち上げたんです」
 
 自分の活動だけでは課題解決には足りないかもしれない。それでも、周囲の人々に知ってもらう努力をしつつ、ある程度意欲のある子どもたちの勉強をサポートしたいというのが、当初の思いだった。
 
「友達が通っている予備校には通えなくても、週に1回勉強を見に来てくれる人がいれば、前日だけでも勉強しようっていう気持ちになりますよね。大人でも、ひとりでジムに通うとなるとなかなか続かないけれど、誰かと一緒に行くとか、なにかしらの強制力のようなものが働けばがんばれるじゃないですか。そうやって、意欲はあるのに諦める理由が多い子どもたちに、諦めない理由のほうが多い環境をつくりたいと思ったんです」
 
 大学の友人や、mixiやインターネットの掲示板で呼び掛けて仲間を集め、6人の運営スタッフから3keysの活動は始まった。

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