諦める理由より、諦めない理由を多くつくりたい

特定非営利活動法人 3keys 森山誉恵

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写真提供:3keys

環境の差が生む意欲格差
 
 現在、全国に600ほどある児童養護施設には1歳から18歳まで、3万人ほどが生活している。不慮の事故などで両親を亡くした子どものほか、虐待などなんらかの理由で家庭での養育が不適切と判断され、保護された子どもたちだ。
 
「児童養護施設で生活する子どもたちには、勉強が遅れている子が多く見られるんです。学校から帰って勉強を見てくれる親もいないし、友達が通っている塾や予備校に通うこともできないので、一度学校の授業についていけなくなるとなかなか挽回できない。そうした環境の違いが、成績や学習の意欲の差につながっていきやすいんですね」
 
 施設で生活することになるまでの間に、学習の遅れが何年間にもわたって放置されてきている場合も少なくない。学習支援のボランティアの現場に赴いた森山さんは、子どもたちの抱える問題の根深さに衝撃を受けることになる。
 
「実際に現場に行くまでは正直楽観視していました。ちょうど『ドラゴン桜』というドラマが流行っていたこともあって、私が勉強を教えに行ったら子どもたちが劇的に変わるストーリーを夢見たりしていたんですけど、現実は全然違っていました」
 
 子どもたちに歓迎されることを期待して施設を訪れた森山さんは、予想とは違う冷ややかな反応にとまどった。
 
「私が行っても勉強する様子もないし、『もう来るな』とさえ言われたり。そりゃあそうですよね。これまで散々放置されてきたのに、大幅に遅れてあきらめた頃になってやってきて勉強しろなんて、私でもそう言うと思います。問題の根深さというか、私1人で週に1回訪れるくらいで解決するほど単純な問題じゃないということを痛感しました」
 
 森山さんが児童養護施設で教えていた子どもたちは中学生が多かったが、ほとんどの場合は小学校低学年の頃から勉強が止まっていた。
 
「いまや塾に行って補習を受けるのが当たり前になりつつあるし、学校も教科書を前に進めるだけで精一杯なほど大変な状況。最近発表されたデータによると子どもたち一人ひとりの遅れや意欲低下に気を配れていないと答えた教師は6割に上ります。そんな状況の中では一度勉強が遅れると挽回する機会がなかなか得られず、子どもたちの自己肯定感は低くなり、居場所がないと感じるようになってしまって、心の傷が深くなっていきます。そして、そういう問題を抱えている子が、とても多かった」
 
 大人でも、なんの成功体験もなく、会社で自分の立場がないと感じ続けることになれば、逃げ出したくなるだろう。身を置く環境が学校と家庭にほぼ限られる子どもならばなおのこと、そうした状況による影響はより一層大きい。そうした思いを子どもたちにさせたくないと、森山さんは慶應義塾大学在学中に「3keys」を立ち上げた。

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