ひとりでは難しいなら、みんなで一緒にやればいい
かもめの刺し子が施されたパーカー
伝え続けるという使命
国を挙げての震災復興。だが、時間の経過とともに、意識も変わりつつある。また、復興関連イベントの会場では、東京では夕方になる前に完売する商品が、大阪では売れ行きが伸びないなど、東日本と西日本で趣が異なるところがあるようにも思われる。
「刺し子製品の売り上げは、やっぱり東高西低です。加えて、これまではやっぱり復興でゲタをはいていた部分があると思います。震災から3年が経とうとしているいまは、もうそれを脱いで、デザインとか、ストーリーとか、商品そのものの魅力で勝負しなければならないと感じています」
先に取り上げた小川さんのお店のような存在を伝えていくことも、自分たちの役割のひとつであると鬼丸さんは言う。
「震災2年目までは、みんな悲しい出来事に疲れてしまって、ネガティブなものから目を背けるために、良い話ばかりを取り上げるようなところがありました。でも最近はそれすらあまり話題にならない。だけど、伝え続けないと被災地がますます忘れられてしまうので。課題ばかりではなく、前進している姿を伝え続けることも、私たちの重要な役割だと思っています」
実際に商品を手にとっていただいて、その温もりを通じて大槌のいまを伝えていきたい。大槌刺し子は、いまや定番となったコースターやふきんに加えて、Tシャツやパーカーなども販売されている。
「ぜひ刺し子商品をお買い求めください。刺し子プロジェクトのオンラインショップでもご購入いただけます。また、販売業の方には代理店になったり、イベントで販売していただけたら。何より、フェイスブックやツイッター、ブログや口コミで話題にしていただいて、こういうプロジェクトがあると多くの方に認知していただきたいです。知ってもらえることが、みんなの元気になりますから」
知ることによって人の心に何かが生まれる。そして自分に手の届く、できることから始める。やはり、刺し子プロジェクトにはテラ・ルネッサンスの魂が貫かれている。
「おかげさまでなんとか岩手の被災地支援も、もう2年以上続けることができました。ほんとうに皆様のおかげだと思っています」
鬼丸さんとテラ・ルネッサンスが紡いできた「ご縁」は、大槌刺し子というかたちに結ばれ、モチーフのかもめのように大きく羽ばたこうとしている。その翼に、刺し子さんたちの、そして地域の夢と希望をのせて。
【鬼丸 昌也】*1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にアリヤラトネ博士(スリランカの農村開発指導者)と出逢い、「すべての人に未来をつくりだす能力(ちから)がある」と教えられる。様々なNGOの活動に参加する中で、異なる文化、価値観の対話こそが平和をつくりだす鍵だと気づく。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、講演活動を始める。同年10月、大学在学中にNGO「テラ・ルネッサンス」設立。カンボジアでの地雷除去支援・義肢装具士の育成、日本国内での平和理解教育、小型武器の不法取引規制に関するキャンペーン、ウガンダやコンゴでの元・子ども兵の社会復帰支援事業を実施している。
【取材・構成:熊谷 哲(PHP総研)】
【写真:shu tokonami】