ひとりでは難しいなら、みんなで一緒にやればいい

NGOテラ・ルネッサンス 鬼丸昌也

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小川さんと焼鳥屋「七福」【写真提供:テラ・ルネッサンス】

テラ・ルネッサンスでやっている意味
 
 ところで、新たな事業を起こした元刺し子さんがいる。72歳の小川さんは、津波で亡くした妹さんの焼鳥屋を再建する夢を、刺し子プロジェクトで働いて得た賃金を開店資金の一部とすることでかなえることができた。町内の「復幸きらり商店街」と呼ばれる仮設商店街に、「七福食堂」をオープンしたのは2011年12月17日のことだった。
 
「最初はどうするか悩んでおられましたけれど、妹さんの思いを継いでいきたいって、とても頑張っていらっしゃいました。実際にお店を出されたのも驚きましたが、去年行ったときには新しいパートさんを雇っていて、またびっくりして。高齢者でも、被災者でも、やればできるんですよね」
 
 大槌町から車で1時間の宮古市の高校生からは、「高校に通いながらですが私も刺し子をできますか」という問い合わせがあったという。少しでも家計を助けたいというのだ。
 
「作業効率を考えると、大槌町の刺し子事務所に通ってもらえる人でないと、基本的には無理なんです。でも、これで断ったら、テラ・ルネッサンスでやっている意味があるまいと思って、やることにしました」
 
 できるだけ配送などのコストを下げているなか、大槌から宮古まで、スタッフが通う交通費で、貴重な事業収入が消えてなくなるようなことにはしたくない。だが、知恵を絞り、協力を仰ぎながら、ひとりの希望をかなえる。その先に、さらに大きな希望が広がる。
 
「いまは比較的余裕のある中高年の方が、余暇を使ってやっているようなところがあります。そこからもう一歩進んで、子どもを抱えている若いお母さんが、手内職として月に数万円稼げるような産業にしていきたいと思っています。そのためには収益を上げて事業として回っていくようにしなければいけないので、僕らが営業をもっとがんばらないと」
 
 生産年齢人口の減少を押しとどめるためにも、少しでも刺し子さんの収入増につなげていきたい。7年後のひとり立ちをめざし、新たな卸先や代理店の確保に奔走している姿は、すでに立派な地域の一員だ。

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