ひとりでは難しいなら、みんなで一緒にやればいい

NGOテラ・ルネッサンス 鬼丸昌也

_E1A5105
刺し子プロジェクト事務所の製品棚

善意を実現するには知恵が必要
 
 地域の中に外からの目線を入れることで、地域に当たり前のようにあるものを再発見する。やってもムダだとあきらめず、成功への糸口を探る。それは、復興の現場にいま一番必要なことなのかもしれない。
 
「震災後にはじめてリアス式海岸を見たとき、すごくきれいで感動したんです。エメラルドグリーンの海、オットセイが上陸する浜、サーフィンのメッカもあって。地元では当たり前でも、はじめて見る人間は感動するような資源がたくさんある。刺し子とうまくリンクさせながら、そういうところをもっとアピールしていけたらいいなあとも考えています」
 
 生活の拠点を移した吉野さんもまた、刺し子プロジェクトを通して大槌町の未来を見据えている。
 
「大槌町って、本当に厳しい状況にありますけど、実はいま日本でいちばんおもしろい町なんじゃないかと思っています。東京で仕事をしていたら出会えなかったような人たちと、一緒に仕事ができる。優秀な人や企業を巻き込んで、地域の課題にチャレンジしていける。これは大きなチャンスだと思います。地域のこれからを担う子どもたちに、そうしたいろんな可能性を伝えていけたら」
 
 町づくりに関わるとなると、刺し子さん以外の人たちとも交わり、古くからのしがらみにも向き合わなくてはいけない。では、自らのあるべき立ち位置はどのあたりなのか。鬼丸さんは自然体を貫きながらも、模索している。
 
「外から新しく持ち込んだ刺し子をやっている限りは、敏感なところに触れなくて済むんです。あくまで、事業として成り立たせることを一番に考えていればいい。ですが、テラ・ルネッサンスの理念を踏まえて大槌の町づくりに貢献したいのであれば、もう一歩踏み込まないといけない」
 
 復興を支援する立場でやってきた自分たちも、ともに考え、ともに活動する中で、地域の一員となり始めている。
 
「善意を実現するには、知恵が必要です。被災地の方々の心の中に土足で踏み込むことを遠慮しつつも、その地域にかかわっている者として、どう適切な環境をつくっていくのか。町の将来を見据えたときに果たすべき役割はどんなものか、それをどうやって実現していくのかを真剣に考えなければいけない。すごく難しい舵取りを迫られていると、いま実感しています」
 
 ゼロからものごとを立ち上げる、困難な状況に立ち向かう、思い通りにならないことが立ちはだかる。そうした経験が、貴重な糧となっている。被災地は一方的に支援されるばかりではなく、支援に入った若者やNPOを育ててくれている。

関連記事