被災地の方々に守られ支えられる支援

NGOテラ・ルネッサンス 鬼丸昌也

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刺し子さんの縫った商品を検品する刺し子プロジェクトのスタッフ

地域経営の新しいモデルを
 
 最初は刺し子をつくればつくるほど赤字。だが、試行錯誤する刺し子プロジェクトには、テラ・ルネッサンスに共鳴するさまざまな企業が手を差し伸べてくれた。
 
「フェリシモさんとコラボ商品を一緒につくったり、らでぃっしゅぼーやさんが商品を販売してくださったりしました。なかでも良品計画さんは、長期のかかわりを約束してくださっています」
 
 良品計画との取引も、いったんは頓挫しかけた。原価計算をすると、店頭で通常数百円の商品を2,000円で売らなければならなかったからだ。それは、質のいいものを低価格で提供する同社の方針には、本来適わぬものだった。
 
「東京でイベントを行ったときに、10年以内にテラ・ルネッサンスの手から離しますと宣言したんです。現地採用とIターンの職員、パートさん、そして刺し子さんだけで事業として回せる組織体にします、大槌刺し子というブランドでひとり立ちさせたいんです、と」
 
 その場に良品計画の執行役員が訪れていたことで状況が変わる。コミュニティ・ビジネスとして現地に根づかせたいという目標を聞き、良品計画のスイッチが再び入ったのだ。
 
「世界中のネットワークを駆使して、商品化の方法を考えてくれました。たとえばベッドカバーの端切れに刺し子をして、コースターとランチョンマットにして販売しようと。良品計画さんは特殊な事情を除いて商品に刺繍はしないそうなのですが、刺し子プロジェクトの理念や方向性に共感してくださって、本業を通じた社会貢献として位置づけていただけたんです」
 
 2013年10月の時点で、刺し子プロジェクト全体で販売した商品は46,000点。売上は5,500万円を超え、作り手は140人を数える。そのうち8,800点は、良品計画とのコラボレーションで作製・販売したものだ。
 
「ぜひ持続可能な事業にしていきたいとおっしゃっていただいています。もともとの伝統工芸ではなかったところに、僕たちのような人間が来てビジネスとして始めて、それがうまくいくようであれば、それはほとんど例がないそうです。成功したら、それは世界で初めてのモデルになるとも言われて、みんな張り切っています。」(吉野)
 
 3年目にさしかかった「大槌復興刺し子プロジェクト」の現在の目標は、『復興』の二文字をとること。そのために、伝統柄や一点もののさらなる創作にもチャレンジして、「大槌刺し子」のファンを増やし、ブランドとして認めてもらえるようにしたい。大槌から、すでに視線は海外へも向けられている。(第三回「ひとりでは難しいなら、みんなで一緒にやればいい」へ続く)
 
【鬼丸 昌也】*1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にアリヤラトネ博士(スリランカの農村開発指導者)と出逢い、「すべての人に未来をつくりだす能力(ちから)がある」と教えられる。様々なNGOの活動に参加する中で、異なる文化、価値観の対話こそが平和をつくりだす鍵だと気づく。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、講演活動を始める。同年10月、大学在学中にNGO「テラ・ルネッサンス」設立。カンボジアでの地雷除去支援・義肢装具士の育成、日本国内での平和理解教育、小型武器の不法取引規制に関するキャンペーン、ウガンダやコンゴでの元・子ども兵の社会復帰支援事業を実施している。
 
【取材・構成:熊谷 哲(PHP総研)】
【写真:shu tokonami】

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