被災地の方々に守られ支えられる支援
刺し子の中村明美さん
被災者に頼るという支援のかたち
そんなひとりが中村明美さん。洋裁の仕事をしていることを知っていた友人から誘われ、避難所となっていた城山体育館を覗いてみたのが始まりだった。
「あの頃は、まだ頭がぼんやりしている感じだったんだけど、行ってみようかなって。でも、『嫌な人だったらどうしよう』っていう気持ちもあったんですよ。だって知らない人たちでしょう?」
そこで出迎えた吉野さんの笑顔を見て、やってみようかという気持ちになったという中村さん。ところが、刺し子はおろか裁縫の経験もないスタッフを目の当たりにして、言葉を失ったという。
「素人って怖いね、って言ったの。仕事柄、飛騨刺し子が頭に浮かんでね。決められた人だけが門を叩いて修行する伝統芸能の、手の届かない世界のものだと思っていたから、刺し子っていうと。たしかに手と針と布と糸があればできるけど、プロがいて教えてくれるんだとばっかり思っていたら、誰もいないんだもの(笑)」
ないない尽くしの様子にほんとうに驚いたという中村さん。なにを教えてくれるわけでもない。それでも、彼女は刺し子プロジェクトに通い続けた。
「『僕はここにいますよ』って言うんですよ、彼らは。なにもない大槌に来て、そこまで頑張ってくれるのなら、じゃあ私もなにか一緒にできることがあれば、って。それはすごく単純なことで。いまだによくわからないんだけどね、吉野さんや鬼丸さんやテラ・ルネッサンスの人たちの、いったいどこが好きなのか」
ほかの刺し子さんが縫った商品にミシンでタグ付けする作業を担当し、デザイン画からサンプルをつくる技術も持っている彼女は、いまや刺し子プロジェクトには欠かせない存在だ。支援とは、一方的に施すものではない。鬼丸さんの思いは、下は20代から上は80代までの女性たちに支えられ、大槌でもしっかりと体現されている。