重なり合い、ひとつになる思い

NGOテラ・ルネッサンス 鬼丸昌也

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糸をより分ける刺し子さん

避難所の人たちに仕事を
 
 差し当たって避難所でなにができるのか、なにをすることが被災者の方たちのためになるのか、吉野さんは手当たり次第に聞いて回った。
 
「高齢者や女性の方たちから『仕事がない』『やることがない』という声が出てきました。男性は片付けとか、なにかしら仕事があるけれど、女性にはやることがない。やることがないと、あの日のことを思い出してしまう人もいる。そういう声がたくさんありました。なので、仲間たちと、その問題を解決するためになにかしようと、アイデアを出し合ったんです」
 
 自分たちにはお金がない。避難所にはスペースもない。そんな中でやれることはないか、5人でアイデアを出し合った。
 
「刺し子ならできるんじゃない、って手芸好きの女性メンバーから提案があったんです。そこで、賛同してくれたデザイナーにデザインを依頼して、自分たちでサンプルをつくってみたら、すぐに売れたんですね。それで、どんどんやろうと」
 
 一針一針布地に糸を刺して模様を描く「刺し子」。針と糸と布があればできる手仕事は、願ったり叶ったりの発案だった。目の前の作業に集中できる環境も、心の安らぎに繋がることが期待された。
 
「最初はひとり2万円ずつお金を出し合って材料を買いました。でも、10万円分の材料なんてすぐになくなってしまって」
 
 ちょうどこの頃、大槌で活動している吉野さんのことが、旧知の鬼丸さんの耳に入る。現地で動ける人を探していたテラ・ルネッサンスと、アイデアから事業への展開を模索し始めていたボランティアチーム。ふたりの縁が、被災地支援というかたちで結ばれることになった。
 
「テラ・ルネッサンスに集まっていた震災支援の募金を刺し子の運営資金に、使わせていただきました。運営母体もテラ・ルネッサンスに移管し、刺し子プロジェクトは、いろいろな課題を抱えながらも、一気に加速していきました」
 
 避難所で、おばあちゃんたちを中心に呼びかける。集まってくれた女性たちに、刺し子の技術を伝える。彼女たちが縫い上げた商品を、テラ・ルネッサンスが検品して買い取り、東京のボランティアたちが通販やイベントで販売する。たくさんの人の支援の思いが重なり合い、「大槌復興刺し子プロジェクト」がスタートした。
 
第二回「被災地の方々に守られ支えられる支援」に続く)
 
【鬼丸 昌也】*1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にアリヤラトネ博士(スリランカの農村開発指導者)と出逢い、「すべての人に未来をつくりだす能力(ちから)がある」と教えられる。様々なNGOの活動に参加する中で、異なる文化、価値観の対話こそが平和をつくりだす鍵だと気づく。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、講演活動を始める。同年10月、大学在学中にNGO「テラ・ルネッサンス」設立。カンボジアでの地雷除去支援・義肢装具士の育成、日本国内での平和理解教育、小型武器の不法取引規制に関するキャンペーン、ウガンダやコンゴでの元・子ども兵の社会復帰支援事業を実施している。
 
【取材・構成:熊谷 哲(PHP総研)】
【写真:shu tokonami】

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