自治体の首長に教育行政の責任と権限を集約すべき

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 亀田徹

 
6.首長に制約を課すべきではない
 
 以上のことから、「政治的中立性の確保」「継続性・安定性の確保」「地域住民の意向の反映」の趣旨は首長が教育行政を担うこととしても実現できることがわかる。
 
 責任体制を明確にするという制度改正の目的から考えれば、首長に責任と権限を集約することが妥当であり、首長を教育行政の執行機関とし教育長を補助機関と位置づけるという中教審の答申は評価できる。
 
 だが、答申は、首長の権限に対して制約を設けており、内容がわかりにくい。答申は、「首長は、その附属機関として設置する教育委員会の議を経て、教育に関する大綱的な方針を定める」としたうえで「教育長の権限に属する事務の執行について、首長の関与は、原則として、大綱的な方針を示すことにとどめ、日常的に指示は行わない」と提言する。
 
 しかし、答申のように首長に制約を課すことには以下の問題がある。
 第一に、首長が定める大綱的な方針が中立的なものであれば、その大綱的な方針にそって首長が事務を遂行すれば中立性は確保されるはずであり、首長の日常的な指示を禁止する必要はない。
 
 第二に、教育長は首長が任免するのであるから、首長とは別に教育長が事務を担うとしても実質的には首長と教育長の方針は重なるはずであり、あえて首長に制約を課す意義に乏しい。
 
 第三に、答申では「首長の交代とともに教育方針が急激に変わることのないようにする」ことが強調されているが、前述のように学習指導要領によって指導内容の継続性が担保されていれば問題はない。しかも、首長が変われば大綱的な方針も変わるはずであり、首長による日常的な指示の禁止は教育方針の変更を防止する手段とならない。
 
 第四に、首長が教育長に指示を行うのは「児童、生徒等の生命及び身体を保護するため緊急の必要がある場合など」の特別な場合に限るとするが、子どもの生命身体を保護するためには日常的な情報把握と対応が欠かせない。日常的な指示と特別な場合の指示との区別は困難である。子どもの保護のために首長が日常的な指示をしたら法律違反を問うことになるのだろうか。
 
 以上のような問題があることからすれば、首長の権限に制約を設けることは避けるべきだ。
 今後、政府と与党との協議を経て法案が作成され、来年の通常国会に地教行法の改正案が提出される見込みだが、責任と権限を集約して教育行政の機能を向上させるため、制約なく首長が教育行政を担えるような制度の設計を望みたい。

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