事実上の意思決定の場になるかが成功のカギ
次の課題はインテリジェンス機能強化
日本版NSCの創設により、省庁間の政策を統合し、能動的、戦略的に外交、安全保障政策を展開する司令塔機能はある程度強化されると期待できる。無論、いかなる制度も生き物であり、実際の運用の中で改善をはかっていく必要がある。米国のNSC、そしてそのスタッフ組織も、歴史的に大きな変質を経験しており、大統領によってその活用の仕方には相当な幅がある。日本版NSCも、様々な経験に学びながら、柔軟にそのあり方を見直していくべきだろう。常設されることに決まった国家安全保障担当の総理補佐官の位置づけも、国家安全保障局長とのコンフリクトを生まないよう、試行錯誤の中で明確にすることが不可欠である。特に、他国の国家安全保障担当補佐官とのカウンターパートは、日本の場合ラインの要である国家安全保障局長であるべきであり、その点について誤解を生じないようにする必要がある。
我が国の安全保障体制の改革は日本版NSCだけが争点ではない。国家安全保障にかかわるコミュニケーションなども重要な課題だろう。しかし、何と言っても、国家安全保障に関して戦略部門とともに車の両輪をなすインテリジェンス部門の改革が次なるテーマである。
NSC法案とともに審議されている特定秘密保護法の制定はその第一歩である。インテリジェンスは、その内容はもちろん、収集の方法も含めて高度な機密に属するものであり、その漏洩は、自国の優位性を失わせるとともに、情報源を危険にさらし、相手側に対抗措置をとらせるなどきわめて大きな負の影響をもたらす。秘密保護が十分でなければ、他国は貴重なインテリジェンスを共有することを避けるだろうし、国内の情報機関同士での情報共有、あるいは情報部門からNSC等の政策部門、戦略部門への情報提供も十分には行われない。実際、こうした事態は我が国のインテリジェンス・コミュニティの問題として長らく指摘されてきたところであり、今回特定秘密保護法が成立すれば、状況の改善に貢献するものと期待される。
特定秘密保護法について公務員が萎縮して取材が抑制されるとの懸念もあるが、旺盛なジャーナリズムが存在する国々に、今回の特定秘密保護法以上に厳しい罰則を伴う秘密保護法制が存在することを考えれば説得力に乏しい。他方で、政府の側も特定秘密の指定は、最高レベルの機密情報、収集方法の詳細や情報源などに限定して行うべきである。いたずらに特定秘密指定を増やしてしまうと、有資格者以外との情報共有ができなくなり、そもそもの使い勝手が悪くなる。政府の情報活動の行き過ぎや過度な秘密主義への懸念をうけて、与野党協議の結果、秘密指定を監視する第三者機関の設置が検討されることになったが、有識者による委員会よりも内部監察や告発者保護の仕組みを強化すべきだろう。米国には政府の行き過ぎ等についての内部告発者を保護する法律があり、各組織の監察官、さらには議会の情報委員会への告発が認められている。米国内における監視活動の可否を判断する外国情報活動監視裁判所(FISA Court)も置かれている。さらに、今回の法案審議過程でも重視されていたように、一定期間を経て秘匿する合理的な必要性がなくなった場合には秘密指定を解除し、歴史的な検証を受けるようにすることが肝心である。