事実上の意思決定の場になるかが成功のカギ
日本版NSCの成否を分けるもの
これに対して、今回は内閣法の改正により内閣官房にスタッフ組織である国家安全保障局を置くことを明記した。人員的にも、安倍首相が60名規模でスタートするとの見通しを示しており、実質的な総合調整や企画立案を行いうる体制になる見込みである。軍事的専門性が不可欠であることから、制服組の積極的な起用も予定されている。国家安全保障局長に就任するといわれる谷内正太郎内閣官房参与はもちろん、次長を兼務する安全保障・危機管理担当の高見澤官房副長官補と外政担当の兼原官房副長官補も、霞ヶ関を代表する戦略家であり、相当強力なスタッフ組織になることは確実だろう。米国や英国など、他国の国家安全保障担当補佐官やNSCスタッフ組織と密接に連携していく上でも、国家安全保障局長をはじめ国家安全保障局にしかるべき人材をあて、権限やリソースを付与することが肝心である。
実効的な総合調整を可能にするには、国家安全保障局を軸に関係各省庁が参加する事務レベル会合を設置し、閣僚レベル会合のアジェンダや政策オプションについて準備すると同時に、閣僚レベル会合での決定事項の実行状況をチェックすることが不可欠である。米国のNSCでは閣僚レベル会合とは別に、副長官級、次官補級の省庁間調整メカニズムが存在しているし、英国においてはNSC(O)と称される事務レベル会合が閣僚レベル会合の前に開催されている。日本版NSCでも局長級からなる幹事会が置かれる模様である。
こうした事務レベルの調整を機能させる上で最も肝心なことは、日本版NSCを単なる話し合いや情報交換の場にせず、事実上の意思決定の場にすることである。日本版NSCも従来の安全保障会議同様、法的には諮問機関という位置づけだが、小泉政権時代の経済財政諮問会議のように、重要な決定が事実上その場で行われるようになるかどうかが、日本版NSCの成否を分けるだろう。事実上の決定機関であるからこそ、省庁間の調整もそのゴールを目指して行われるし、最も重要で機微な情報を提供し、事務局に優秀な人材を送り込むインセンティブも生まれる。逆に、国家安全保障局や事務レベルでの調整メカニズムは、意思決定に直結するようなアジェンダを設定し、しかるべき政策オプションを用意するようにしなければならない。さる英国のNSCスタッフ組織高官も、議論だけに終始しないよう会合の焦点を保ち、意思決定に資するようにすることが重要と力説していた。