事実上の意思決定の場になるかが成功のカギ

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 金子将史

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日本版NSCは万能薬ではない
 
 日本版NSCについては国家安全保障に関する戦略的な検討を行うだけでなく、危機管理全般の司令塔としての機能を期待する声もあり、そのように報道する向きもある。今回の法改正でも、重大緊急事態への対処について、事態の種類に応じてあらかじめ指定された閣僚が検討を行う枠組みが設けられた。
 
 しかし、たとえば今年1月に発生したアルジェリア人質事件のような事態で日本版NSCが危機管理の司令塔の役割を果たすべきかというとそうではないのではないだろうか。英国も、自国民が同事件に巻き込まれているが、実際の対応は外務連邦省が中心になって行い、政府全体としての危機管理面での調整はCOBR(Cabinet Office Briefing Room)の枠組みで行われている。これに対し、英国版NSCでは、アルジェリアとの二国間関係、石油供給への影響、地域情勢への影響について、長期的、戦略的観点からの検討が行われた。
 
 日本においても、NSCで危機管理全般を扱ってしまうと首相をはじめとする関係閣僚への負荷が過大になるおそれがあり、アルジェリア人質事件のような事例での危機管理は、緊急参集チームから対策本部にいたる既存の危機管理体制の強化をまず考えるべきであろう。NSCを万能薬のようにみなすことは適切ではなく、その役割や焦点が拡散しないよう留意すべきである。重大緊急事態に関するNSC閣僚会合も、本当に必要な場合に絞って開催するようにすべきであり、蓋然性の高いシナリオについて本格的なシミュレーションを実施するなどして備えを充実する枠組みとしての活用を考えるべきだろう。他方で、自衛隊の海外展開や尖閣有事など国内での防衛出動を含むような事態については、NSCが作戦面も含めて大まかな方向性を決める必要がある。英国版NSCにおいても2011年のリビア介入では、戦略面だけでなく戦術面も含めての方針決定が行われた。
 
 また、戦略面にしても、何から何までNSCで決めるということではなく、関係省庁との適切な役割分担をはかる必要がある。日本版NSCは、最高レベルの重要課題についての意思決定や省庁間調整に貴重な時間や労力を割くべきであり、マイクロマネジメントに追われるようであってはならない。日本版NSCや国家安全保障局が主導する部分と、各省庁に任せるべき部分との効果的な役割分担を見出していく必要がある。
 
 与党内での調整や野党との協議といった、政治的な側面を扱うことも日本版NSCの役割の範囲を超える。日本版NSCでの意思決定のプロセスと政治的なプロセスの歯車をうまく噛み合わせていくための何らかの工夫が必要になるだろう。たとえば、英国では、場合によっては野党にNSCへの出席を求めるなど、与野党が安全保障政策をめぐって過度に対立的にならないような措置がとられているようである。
 
 四大臣会合を定期的に開催したり、関係閣僚がインテリジェンス・ブリーフィングを受けたりする時間を確保するには、閣僚を国会審議に過剰に縛り付けるこれまでの慣行を見直すことが不可欠になる。日本版NSCを形骸化させないためにも、現在与野党間で協議がされている国会改革を前に進めることがぜひとも必要である。

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