事実上の意思決定の場になるかが成功のカギ

政策シンクタンクPHP総研 主席研究員 金子将史

main_4_131203

 
「積極的平和主義」をいかに実践するか
 
 日本初の国家安全保障戦略(NSS)をとりまとめ、防衛大綱を策定することが日本版NSCの初仕事になるだろう。2010年に創設された英国版NSCの最初の仕事もNSSの策定と戦略防衛・安全保障見直し(SDSR)だった。英国の場合、NSC創設後にNSSやSDSRの起草プロセスが始まったのに対し、日本の場合、正式にNSCが立ち上がる前から策定作業がスタートしており、日本版NSCの事実上の役割は出来上がったNSSを承認することになりそうである。とはいえ、四大臣会合のメンバーになる安倍首相、菅官房長官、岸田外相、小野寺防衛相、さらに麻生副首相による会合でNSSを策定する方針を決め、NSSを検討する有識者会議「安全保障と防衛力に関する懇談会」にも節目節目でこれらの閣僚が出席しており、国家安全保障局長に就任予定の谷内氏が同懇談会メンバーであるなど、事実上日本版NSCが策定過程に関与するかたちになっている。
 
 英国ではブラウン政権の2008年に最初のNSSが策定されており、2010年のNSS策定も全くはじめての経験ではなかったが、日本では本邦初の試みである。また、スタッフ組織である国家安全保障局の体制が整わない段階での作業となったこともあり、関係省庁間でどれだけ綿密な調整を行っているか、また、安全保障上の情勢見積もりや脅威やリスクの評価をどのくらい体系的に行っているか疑問なしとはしない。
 
 2010年の英国NSSとSDSRでは、NSSでは戦略的文脈(strategic context)と「目標(ends)=何を達成しようとしているか」を示し、SDSRでは「手法(ways) =いかに達成するか」と「手段(means) =いかに資源を割くか」を示すものと整理された。日本初のNSSも、情勢認識と日本が何を目指すのかを明示することがボトムラインである。それに加えて、具体的な手法や手段をどのくらい規律しうるか、また体系的な情勢見積もり、脅威・リスク評価をどの程度行えたかが評価のポイントになるだろう。
 
 日本が何を目指すかについては、安倍首相が各種のスピーチや有識者懇談会の冒頭発言で語っているように、「積極的平和主義」というコンセプトが打ち出されるのであろう。ただし、安倍首相の発言は「『国際協調主義に基づく積極的平和主義』の立場から、世界の平和と安定、そして繁栄の確保に、これまで以上に積極的に寄与していく(2013年10月21日安全保障と防衛力に関する懇談会での冒頭発言)」といった抽象的なものにとどまっており、12月に発表する予定のNSSにおいて、それが具体的に何を意味するのか、どのような政策体系を成すのかを明確にする必要がある。
 
 NSSのような文書は、国としての立ち位置を示し、また策定作業を通じて各省庁を方向づけていく意味を持つが、そうした文書をまとめることと国家安全保障政策を戦略的に展開していくことは必ずしも同じではない。ある英国政府高官が、「新しい事態が発生することにより、Strategic Momentが訪れる」と述べていたように、状況の変化をいち早く把捉してその中長期的な含意を吟味し、また普段から様々なシナリオを検討して、いざStrategic Momentが訪れたときにそれを適切に捉えることが重要であり、それこそが日本版NSCやそれを支える補佐機構の果たすべき役割といえる。

関連記事