シルバー民主主義「論争」を越えて<2>

島澤諭(中部圏社会経済研究所主席研究員)×小黒一正(法政大学教授)×亀井善太郎(PHP総研主席研究員)

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3.2018年の政策議論に期待すること
 
亀井 さて、2018年の政治日程を見通してみますと、財政の持続可能性、ひいては、世代間の格差に関する議論が続きます。
 振り返れば、昨年の秋に総選挙がありました。ここで、安倍総理は、かつての三党合意に基づく2019年に予定されている消費税の増税を改めて約束したと同時に、その使い道については、三党合意ではその多くを借金の返済に充てるものでしたが、これを変更し、全世代型の社会保障に向けていくという政権公約を示しました。具体的には、幼児教育の無償化、子育て世代の支援を中心に、若い世代、現役世代に資源を配分していきましょうということです。
 すでに、選挙後の12月8日は「新たな政策パッケージ」として閣議決定され、これから具体化が始まります。先日の経済財政諮問会議でも、そうした方向性に沿って、夏までに次なる経済と財政の運営の枠組みを明示すると表明されました。
 春には日銀総裁の人事、秋には自民党総裁選があり、それが様々な影響を与える可能性もあるでしょう。
 こうした政治日程を考えたときに、ひとつには国会において、これは国民から見える政治の舞台です。もうひとつには、議院内閣制と事前審査が慣例化しているいまの政治体制では実質的な政策決定プロセスである、政府および与党において、どのような議論が行われるべきなのでしょうか。
 
いまの全世代型社会保障は形を変えた補助金行政の継続であり拡大
島澤 全世代型の社会保障というのが、いまの世の中の流れですが、これは、2009年に旧民主党が政権を取った時にさかのぼります。彼らが何をしたかといえば、若い人重視の「子ども手当」をやり、「コンクリートから人へ」というふうに、それまでとは違う、要は、現役世代重視の政策を打ち出して政権を取ったわけです。
 これは、ひとつの政策的なパラダイムチェンジになったというか、イノベーションが起きたと思っていて、要は、若い人も政策をやれば票を投じてくれるということを、おそらく、政治が学習したのだと思います。
 現在も、その流れは続いていて、高齢者の給付はアリバイ的にわずかながら削るふりをして、基本的にはそのままにしておいて、かつ、若い人向けの給付を行っていくようになっています。それが、いまの「全世代型の社会保障」の形なのだと思います。
 ただ、よく見てみると、幼児教育の無償化も、人にもらえるわけではなく、お金は事業者にいきます。大学教育に関しても同じでしょう。
 ですから、全世代型の社会保障と言いつつも、これまでのような企業や事業者への補助金の形は変わりません。けっきょく、補助金行政の継続であり、その拡大なんです。
 
選挙を終えた今こそ、世代間の構造問題に手を付けるべき
 内閣府の骨太方針が本当に「骨太」であれば、そういう形だけの全世代型の社会保障ではなくて、要は、社会保障の問題は、世代間のそもそもの受益、負担のアンバランスという問題がひとつある。これこそ構造改革すべきところです。
 もうひとつは、負担の先送りでいまの社会保障を賄ってるという、この流れを全部そのままにしたまま、改革というのはあり得ません。ですから、もし本当に骨太の方針が骨太であるとすると、そこを議論すべきではないでしょうか。
 今年は選挙がない年ですから、それを議論できる年だと思います。
 
亀井 加えて言えば、診療報酬、介護報酬のダブル改定のような直接の利害調整もちょうど終えたばかりなんですよね。選挙が終わり、直接の利害調整がしばらくないからこそ、長い目で見てやらねばならないことをきちんと問題提起できるものでなければなりません、その基本方針が示されるというのがすごく大事なところです。
 いまの島澤さんのお話は、二つの世代間格差のところでいうところの、結果的には、若い世代の給付が増えるだけで、高齢者の問題は温存したままだということですね。
 あなたたちがもらってるだけではずるいから、おまえたちにもあげるよ、それも供給者ルートで渡して、さらには、その渡した源泉はどこに行っているかといったら、まさに将来世代に行っている、こういう問題を指摘されているわけですね。
 
小黒 まったく同感です。受益と負担の構造を変えて、財政を持続可能にするためには、まず社会保障の改革のところをきっちりしないいけません。
 そういう心づもりは、政府の文書から若干は読み取ることもできます。昨年の12月4日閣議決定「新たな政策パッケージ」に文章として、次のようなことが書かれています。
 まず、2020年度のプライマリーバランスの黒字化は先送りとなるが、財政健全化の旗は決して降ろさず、2018年度における新たな骨太方針の策定において、プライマリーバランス黒字化の達成時期をまず明確化するということ、加えて、成長実現ケースだけでなく、ベースラインケースであっても、黒字化に向けて頑張るというメッセージを出しています。
 それから、別のところでもう一回、財政健全化の計画がうまくいっているかどうかを見直して、もっと新しいバージョンにすることも書いてあります。その裏付けとなる具体的かつ実効性の高い計画を示すというのが閣議決定した文書に入っているので、何か少し変えていきたいなということは考えていると思います。
 ただ、現実は、そんなに単純ではないかなと思っているのは、天皇陛下の退位や元号制定や様々な政策イシューもあり、また、もっとも重要なのは、2019年10月の増税判断がされるかどうかに話題が集中してしまい、新しい計画のブラッシュアップは小粒になってしまうことを懸念しています。
 

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