希少性を生かした「稼ぎ方」から考える

金丸恭文(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長/グループCEO)×磯山友幸(経済ジャーナリスト)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

 働き方改革に関する議論が盛んになっている。政策シンクタンクPHP総研も昨秋、報告書『新しい勤勉(KINBEN)宣言』をとりまとめ、今後の働き方のあるべき姿を提示した。今年8月には、厚生労働省の「働き方の未来2035:一人ひとりが輝くために」懇談会報告書を発表するとともに、内閣府には「働き方改革担当大臣」が新設されるなど、働き方改革は実現に向けて一歩前進という感を見せている。今回は、同懇談会の座長を務めた金丸恭文氏(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長 グループCEO)と同事務局次長の磯山友幸氏(経済ジャーナリスト)、ならびにPHP総研の永久が未来の働き方について論じた。

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1、ピラミッド社会に生きる人たちは失業する
 
永久 『働き方の未来2035』を読ませていただきました。その中身を要約すると、AIを中心とした技術革新が進み、かなり多くの仕事がAIでできるようになってしまう。人間はAIを道具として駆使しながら、人間にしかできない仕事に専念していかなければならない。これが、これからの働き方になりますということですね。
 
金丸 これからの20年は、過去の20年よりも、はるかにドラスティックな技術革新が起きると思います。それがどう社会や働き方を変えるのかということを考えました。新しい技術をうまく使いこなす人とそうでない人では、大きな開きが出るはずです。私は20代のころ、パソコンの設計・開発のリーダーをしていたのですが、当時は企業がパソコンをなかなか有効活用できていませんでした。例えば、セブンイレブンがITを活用した在庫管理システムを導入して効果を出しているのに、百貨店、大手スーパー、他のコンビニエンスストアは、何も手を打たなかった。だから、棚が空になるまで手が打てないといった状況がいまだに生じています。せっかくすばらしい「武器」が目の前にあるのに、それを的確に使えなかったわけです。彼らはこれから起きる技術革新でも、過去と同じような間違いを犯すのではないかと危惧しています。そして、その確率が高いのは、「大きい人」たちなんです。
 
永久 「大きい人」たちというのは、大企業という意味ですか?
 
金丸 ピラミッド型の組織ですね。現場での変化の手応えが経営陣に上がってくるのがものすごく遅いから、間違える。これは日本社会全体にも言えることです。序列が強いピラミッド社会では、変化についていけない。だから懇談会の報告書で私が伝えたかったことの一つは、「フラットな社会にしなければいけないし、そうなるだろう」というメッセージなんです。
 
永久 懇談会の中で、それが具体的にイメージされるような議論はあったんですか?
 
金丸 1回目の会合で二足歩行型ロボットが紹介されました。ディープラーニングで歩き方を改善していくので、雪道ですら人間のように歩けるというロボットです。重い荷物を運ぶといった作業もできます。このロボットの出現で、重い荷物を運ぶことを「存在価値」としてきた男性は要らなくなります(笑)。ピラミッド社会でいうと、軽作業層はロボットに置きかえられやすいということです。次に、大企業における大卒ホワイトカラーといった中間層の人たちはますます「不要」になります。情報のサマリーや表計算などの仕事はみなAIが担うことになる。さらに、過去の経験や実績で意思決定をしている人も居場所がなくなります。前例や事例などはAIのほうがよく知っているし、それに基づいた意思決定も人間より速いわけです。結局、早い段階で自分のスペシャリティーを見出して、それを年々というか、日々刻々と進化させていかないかぎりは、仕事がなくなります。
 
永久 大概のことはAIなどがやってくれて、人間に残された仕事はクリエイティブなことだけになる。しかもその力をアップデートし続けなければならない、となるとかなりきついですよね。
 
金丸 クリエイティブでなくとも、希少性の中に自分の価値を見出さなければならないということです。軽作業でも標準化しにくいものもあるんですよ。新幹線の車内清掃がよい例です。新幹線が東京駅に着くと、清掃員が社内を掃除しますよね。乗客が残した汚し方のパターンは無限にあるにもかかわらず、一定品質を保ちながら瞬時にきれいにする。あれはロボットでは置きかえにくい。だから、価値がある。
 

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2、改革への動機づけとなりうる報告書
 
永久 PHP総研が発表した提言書『新しい勤勉宣言』では、少子高齢化で労働力が将来的に減少していくわが国の経済力を保っていくには、働き手一人ひとりの生産性を高めていく必要がある。そのためには、どこでもいつでも働けるような「空間的・時間的」適材適所を進めなければならない、というロジックがあるのですが、今のお話ですと、大部分の仕事はロボットとかAIがやってくれるので、人間の労働力の減少自体はそれほど問題ない、という認識ですか?
 
金丸 日本の場合、より注目すべきは「消費をする力」がなくなるということです。今でもすでに減少していますよね。国内だけをマーケットにしている人たちならば、労働力不足はそれほど問題にはならない。消費力が落ちていく国内から海外でのマーケットメイクに目を向けてはじめて、労働力不足が問題になるんです。経済力を維持していくためには、サービスやサイバー上の市場を含めて、国際的な競争をしていかなくてはなりません。
永久 磯山さんはPHP総研の『新しい勤勉宣言』と厚労省の「働き方の未来2035」の双方に参画されました。それぞれ切り口は違いますが、「自由で働き安い環境をつくらなければいけない」という答えはほぼ同じです。このあたりを、どうお考えですか?
 
磯山 いつでもどこでも働ける、多様な働き方ができる人材を育てる、という部分では共通しているのですが、「2035」の場合、AIやロボットにどこまで代替されるのか、あるいはされないのかという技術革新の部分を最初に意図的に論じてから、働き方について議論をしていきました。読まれて漠としているという印象を抱かれるかもしれませんが、それは現在進行中の熱い議論に油を注ぐようなことは避けたいという考えがあったからです。別の言い方をすると、「このレポートは、同一労働同一賃金に反対だ」といったレッテルを貼られると先に進まないので、みんなが納得する20年後を提示することに注力しました。
 
永久 今後これをいかに実現させていくのか。何かプランのようなものはあるのでしょうか?
 
金丸 報告書の中に、「具体的な施策、体制および工程表をつくり、早急かつ着実に新しい労働政策のあり方を検討していく必要がある」と記していて、現実に厚労省内に組織ができたと聞いています。
 
 厚労省の全局長が集められて、大臣から「この中に書いてあることで、自部門に関係するところは全部洗い出せ」といった指示が出ていますね。これから各部門から、さまざまなアイディアが出てくるものと期待しています。
 
永久 厚労省の中でそうしたプロジェクトチームみたいなものができたというのは嬉しいことですね。
 
金丸 懇談会のアドバイザーには、労政審会長である慶應大学の樋口美雄教授や連合の神津里季生会長らも入っているので、一応ステークホルダーの方々とも調整した結果の文章となっています。その点からも実現に向けて進めやすい提言内容であると言えます。
 
永久 一方で話は厚生労働省だけに留まらず、例えば税制の問題で財務省とか、他の省庁でも同時に検討すべき課題がありますよね。
 
磯山 こういうきっかけというか、動機づけみたいなものがないと役所は動けないので、その意味ではこれからだと思います。役所の中の若手の改革派の人たちは、この懇談会をとても興味深くとらえてくれていて、やる気も感じられます。ただ、役所に丸投げでは動きにくいので、例えば規制改革会議や未来投資会議で議論が出てくる中で、民間のほうからも球を投げるという、そういう相乗効果の中で、具体的に制度が変わっていくのではないかと思います。これまで労働政策は、常に労使協調で決まっていくので、常に「接ぎ木」で少しずつしか前進しませんでした。大きく抜本的に見直すためには、まずビジョンを示し、それを目指して現状を変えていくというバックキャスティングという手法が必要です。

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3、普段は見逃している希少性に価値を探す
 
永久 AIなどの技術革新によって、人間のやる仕事が限定的になっていくと、今の日本の教育の内容、やり方でいいのかと疑問に思います。そのあたりは、どうお考えですか?
 
金丸 国語と算数、理科、社会の基礎的なものは、将来どういう分野へ行くかわからないので、ある一定程度はやらなければいけません。とくにおろそかにしてはならないのは、日本の歴史。個人的にはもっと詳しく京都の歴史は知っておくべきだったと思っています。それに、アニメも知っておいたほうがいいですね(笑)。なぜなら、日本の歴史やアニメなどは国際的に知られているし、それらを通じて日本に関心を持っている人がたくさんいます。だから、我々も知っておかなければなりません。今度弊社に入社するアメリカ人は、大学時代に1度日本に来ただけで日本語はもうぺらぺらなんですよ。さらに、内定してから入社するまでに、簿記2級をとることを要件としているのですが、漢字の専門用語も出てくる試験を日本語で受けて合格しました。東大、京大、早稲田、慶應の学生なんか、けっこう落ちて内定取り消しになっちゃうんですけれどね。
 
永久 それはどういうふうに理解したらよろしいでしょう。「日本のことをもっとちゃんと知らなければいけない」ということですか、それとも、日本人の若者、我々も含めてかもしれませんが、ハングリー精神みたいなものを持たなければならないということですか?
 
金丸 ハングリー精神というよりも、我々の周りには、普段は見逃しているけれど、付加価値や希少性が存在しているということです。具体的には田舎の出身であればあるほど、それ自体が希少性なんだから、それをもっと大切にしていくと、世界に通用する価値にもなりうるということです。例えば、デンマークが意識しているのは、世界の若者とデンマーク人の若者が競争するというイメージなんですね。だから「世界の人と競争した時に、ITリテラシーでコンプレックスを持つデンマーク人はつくらない」という教育方針を掲げているんです。ITリテラシーが高ければ、それを駆使して、新しいサービスを創造することになるかもしれないし、アートを作り出すかもしれない。
 
磯山 日本はいまだにタブレットを配る、配らないのレベルですよね。
 
金丸 電子書籍なども普及すると、本の文化がなくなるとか言っていますよね。
 
磯山 そんなものに抵抗していてもしかたがないと思うし、紙もデジタルも「境目がない」と認識すべきだとも思うんですけど。
 
金丸 経済圏の空間が、サイバーとリアルな世界の合体になったということですよ。リアルの世界だけに閉じたビジネスモデルは、サイバーと組み合わせたモデルにはかないません。その好例がアマゾンじゃないですか。日本にすでにあったロジスティックとサイバーを組み合わせて新しい小売りの仕組みをつくったというのがすごいところです。
 
磯山 我々は、素材は持っているのに、それをうまく料理できていない。

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4、家族ぐるみでリスクがとれる教育を
 
永久 それをうまく料理できるようにする教育の仕方が必要だと思うのですが、具体的に学校現場でどのようなことをしたほうがいいのでしょうか?
 
磯山 これまではジェネラリスト教育というか、基本的にみんな同じ金太郎飴を育てるという教育だったわけです。これからはやはり自分で好きな道を選んで突き詰めることができるようにしないといけないですよね。それを応援するような教育のあり方が必要だと思います。
 
金丸 国語と算数、理科、社会という科目を、一つの序列をつくるためのツールとして使ってきましたよね。小学校から大学に入るまで。そうした科目が得意な子どもは、何でもできるけど特徴がない平均的な大人になってしまう。それらが苦手な子どもたちは、「できないやつ」というレッテルを貼られるから、グレるしかなくなる。これがいま日本の弱点として出ていると思うんです。国語算数理化社会が苦手でも、走るのがすごく速いとか、力が強いとか、一つでも二つでも得意なものを持っているということは希少性だし、社会的に価値がある。それらをもっとポジティブに表現して、そういう希少性や特徴を持った人たちがたくさん集まると強い社会になっていく。
 
磯山 今の社会だって現実的にはそうですよね。過去に成績がよかったやつが必ずしも豊かになっているとは限らない。
 
金丸 学校の成績が社会的価値なら、胸に偏差値や大学名を貼って歩けばいい(笑)。
 
永久 だけれど、それが分かっていても、自分の子どもには国語、算数、理科、社会、英語をきっちり勉強させたいという現実もありますよね。
 
金丸 まぁ、同じ間違いをする人たちはいるわけです。でも、福原愛選手のお母さんなんか、自分が卓球の選手で、娘を泣かせながらあそこまで育てました。グーグルの創業者ラリー・ペイジだって、6歳からプログラミングを始めたんですよ。両親はコンピューターサイエンスの学者です。要するに、子どもの将来は早い段階から、親ぐるみ・家族ぐるみで考えなければいけないと思います。
 
永久 それはリスクテイクとも言えますね。子どもの時に、何に才能があるか、あるいは将来何をしたいかなんて、なかなか判断できないですよね。ドイツ人の友達が、中学に入る前に自分の将来を決めなければならないけど、「そんなのできるか!」と言っていたのを思い出しました。
 
金丸 うちの息子は高校からスイスの学校に行っているのですが、最初の面接の時にいきなり「あなたは将来何になるんですか。何を目指していますか」って聞かれて、本人は「はあ?」と答える。私が横から「いや、まだこれからだと思います」って言ったら、「わかりました。ではお父さんは、彼を何にしたいんですか」と聞くんです。「えっ? それは子どもが決めることで…」って答えたら、「では、お子さんが決めるために、学校は何をしたらいいかを言ってください」と言われたんですよ。その時はもうびっくりしたんですけど、日本のほうが変ですよね。国語、算数、理科、社会の勉強の延長線上で入れる大学に行って。どんな職種に就くかも決めないまま…。
 
磯山 入れる会社に入る。
 
金丸 これでは、グローバル競争の中で勝てるわけがありません。日本の社会は、決めてない者同士だから、引き分けで成り立ってますが、国際的にはどんどん弱くなる。

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5、今の制約の中でもできることはたくさんある
 
永久 そうした社会から脱却するには具体的に何をすべきでしょう。
 
金丸 私は今、鹿児島県の三島村(注:硫黄島・黒島・竹島の3島からなる村)に高校をつくってあげたいと思っているんです。サイバー上の高校です。授業はどこかの高校の授業をそのままネットで流してあげればいい。
 
磯山 予備校みたいなものですね。
 
金丸 そうすると、フェリーに乗って鹿児島市に行って、下宿代払って高校に行く必要がなくなる。さらに、大学もバーチャルでサイバー上の教育が受けられるようにする。
 
磯山 ところが、高校とか中学の定義というのは、運動場がなければいけない、といった物理的な要件が文科省によって設置されている。
 
金丸 でも三島村は、島全体が運動場みたいなものです。山があり海がある。そういう発想がなぜ持てないのかと、文科省に言ってるんですよ。まずは、こうした具体的な事例をつくらないと先に進まないと思うんです。
 
磯山 ここがまた国際交流を深めようとしていますよね。しかも、アフリカのギニア共和国がお相手ですよね。
 
金丸 そうなんです。ギニア共和国にジャンベという太鼓の「神様」と呼ばれる人がいて、この人を日本が呼ぼうとしたんです。そしたらその彼が「自分はギニア共和国でも小さな村の出身なので、私が交流するなら、候補の中で一番小さい村に行きたい」と言って、三島村を選びました。さらにそこでジャンベの国際大会が開かれ、シャンベのスクールまでできた。村は補助金を出して、このスクールへの半年留学という制度までつくりました。そのおかげで、この村に移住する人が増えているんです。今後、病院、教育、介護などの問題をAIやIoTが解決していけば、三島村はその希少性で国際的にも価値を持つところになるはずです。
 
永久 ということは、別に法律や制度が悪いなどと大騒ぎせずに、やれることはやっちゃえばいいということですよね。
 
金丸 日本の自治体はあちこちの国の自治体と姉妹都市になっていますよね。でも、ほとんど名前だけじゃないですか。それを実のあるものにすべきなんです。鹿児島はオーストラリアのパースが姉妹都市ですが、そこの市長が鹿児島に来て、貿易と経済で繋がりたいと提案したそうです。例えば、畜産だとパースで和牛の子牛を育てて、それを日本が買い、黒毛和牛のブランドで売るというコラボレーションが可能ということがわかった。すでに鹿児島県の有望な畜産家は、TPPの準備完了とのことです。
 
磯山 今の制約の中でも可能性があちこちにあるということですね。
 
金丸 実は、やれることをやってないんですよ。にもかかわらず、だめな理由を政府とか公のせいにしちゃって、大企業も含めておねだり合戦しているわけです。
 
永久 それでいうと、国から地方にお金が流れる仕組みがずっと続いているわけじゃないですか。それが地方や企業をスポイルしているとも言えますね。
 
磯山 地方交付税交付金という仕組みが、基本的に自立を妨げていると思います。だから、思い切って一回やめたらいい。
 
永久 そうした議論をずっとしているのですが、なかなか進まない。
 
磯山 むしろ今、地方税を国税化するほうに逆行していますからね。最悪ですよ。
 
永久 「新しい働き方」から切り込んでいくと、税制や地方分権、道州制といった統治制度の変革の議論まで到達しますよね。というか、行かないといけない。
 
金丸 ええ、行かないといけないですね。

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6、働き方の改革は社会全体の大きな枠組みの中で議論すべし
 
永久 「働き方改革担当大臣」というポストできましたが、お二人は具体的に何を期待されますか?
 
磯山 厚労省はやはり今までずっとやってきた労働政策の枠組みからなかなか離れられないので、違うところに司令塔をもう一つ置くというのは、新しいことをやる方法としては正しいと思います。今までの労働政策の枠組みを超えた考え方や政策決定プロセスが必要だということです。
 
永久 具体的にはどういうことですか?
 
磯山 厚生労働省の場合、労働政策の中に労働政策審議会というのがあって、労働側10人、使用者側10人、公益委員10人の合意で決めるという約束ごとがあるので、合意できないような話はできないんですね。つまり、厚労省の外側に改革の司令塔というかエンジンがなければ、議論が進まないんです。もちろん、塩崎厚労大臣は一所懸命改革を進めようと努力されていますが、厚労省の中だけでは、今までの延長線上でしか議論できないのではないかと思います。
 
永久 延長線上を越えた議論とは、具体的にはどのようなものでしょう。報告書に書ききれなかったことなどもあるのではないですか?
 
磯山 結構あります。なかでも重要なのは、労働基準法はもともと、製造業の工場法というのが前提になっているので、それとは違う体系の働き方の法律みたいなものをつくってしまうほうが早いのではないか、ということです。こうした発想が必要だと思うのですが、なかなか厚労省には受け入れられませんね。
 
金丸 サービスとかソフトウェアなどを提供するビジネスモデルで稼いできた人が増えているので、今の労働法制はすでに合っていませんよね。技術革新がさらに進むと、企業のあり方もどんどん変わるので、労働法制も常にそれにふさわしい形に変えていかなければなりません。一人ひとりの家庭の状況や置かれているステージは変わるので、個別の雇用契約を結べばいいのではないかということになり、そうなると、民法がベースになるのではないかという問題提起をしています。
 もう一つ問題提起したいのは、「働き方」という言葉を使っているけれども、最初から職場があるというわけではないということ。別の言い方をすると、働く場所は稼がなければできないわけです。「働き方」というのは受け身的な言い方で、むしろ収入を得る方法、つまり「稼ぎ方」を変えていくという観点から法律なども検討していく必要があると思います。経済やマーケットと働き方はコインの裏表というか、社会の活力の両輪です。片方だけを考えていてはいけません。
 
磯山 そうなんです。アベノミクスで今言ってることというのは、「稼ぐ力を取り戻す」ということなんです。コーポレートガバナンスの改革もやっていて、その延長線上に働き方改革があると思うんですね。働き方の改革はそういう大きな収益性改善の話の一部であるととらえる必要があります。
 
金丸 それが、今はスタンドアローンで独立しているような印象ですよね。
 
磯山 結びついているはずなのに、どうしても労働者保護的な政策のほうに引っ張られている感じがします。あまり引っ張られ過ぎると、逆の方向へ行っちゃって、下手をすると全員公務員化みたいな、ギリシャのようなことになってしまう恐れもありますね。
 
永久 そうしないためには、セーフティーネットみたいなものをきっちりつくって、それで働き方の改革を進めるということをしないと、進まないと思うんですよね。
 
磯山 そうなんです。まずは労働者保護的なセーフティーネットの構築を先にした上で、次はそういう、金銭解雇だったり、自由な働き方、自立した働き方ができるような法整備をしていかなければなりません。 
 
永久 今日の話をまとめると、「働き方の改革」は、国と地方の関係、経済、社会保障、教育のあり方といった大きな枠組みの中でとらえながら検討していかなければいけないということですね。今日はどうもありがとうございました。
 

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