希少性を生かした「稼ぎ方」から考える
2、改革への動機づけとなりうる報告書
永久 PHP総研が発表した提言書『新しい勤勉宣言』では、少子高齢化で労働力が将来的に減少していくわが国の経済力を保っていくには、働き手一人ひとりの生産性を高めていく必要がある。そのためには、どこでもいつでも働けるような「空間的・時間的」適材適所を進めなければならない、というロジックがあるのですが、今のお話ですと、大部分の仕事はロボットとかAIがやってくれるので、人間の労働力の減少自体はそれほど問題ない、という認識ですか?
金丸 日本の場合、より注目すべきは「消費をする力」がなくなるということです。今でもすでに減少していますよね。国内だけをマーケットにしている人たちならば、労働力不足はそれほど問題にはならない。消費力が落ちていく国内から海外でのマーケットメイクに目を向けてはじめて、労働力不足が問題になるんです。経済力を維持していくためには、サービスやサイバー上の市場を含めて、国際的な競争をしていかなくてはなりません。
永久 磯山さんはPHP総研の『新しい勤勉宣言』と厚労省の「働き方の未来2035」の双方に参画されました。それぞれ切り口は違いますが、「自由で働き安い環境をつくらなければいけない」という答えはほぼ同じです。このあたりを、どうお考えですか?
磯山 いつでもどこでも働ける、多様な働き方ができる人材を育てる、という部分では共通しているのですが、「2035」の場合、AIやロボットにどこまで代替されるのか、あるいはされないのかという技術革新の部分を最初に意図的に論じてから、働き方について議論をしていきました。読まれて漠としているという印象を抱かれるかもしれませんが、それは現在進行中の熱い議論に油を注ぐようなことは避けたいという考えがあったからです。別の言い方をすると、「このレポートは、同一労働同一賃金に反対だ」といったレッテルを貼られると先に進まないので、みんなが納得する20年後を提示することに注力しました。
永久 今後これをいかに実現させていくのか。何かプランのようなものはあるのでしょうか?
金丸 報告書の中に、「具体的な施策、体制および工程表をつくり、早急かつ着実に新しい労働政策のあり方を検討していく必要がある」と記していて、現実に厚労省内に組織ができたと聞いています。
磯山 厚労省の全局長が集められて、大臣から「この中に書いてあることで、自部門に関係するところは全部洗い出せ」といった指示が出ていますね。これから各部門から、さまざまなアイディアが出てくるものと期待しています。
永久 厚労省の中でそうしたプロジェクトチームみたいなものができたというのは嬉しいことですね。
金丸 懇談会のアドバイザーには、労政審会長である慶應大学の樋口美雄教授や連合の神津里季生会長らも入っているので、一応ステークホルダーの方々とも調整した結果の文章となっています。その点からも実現に向けて進めやすい提言内容であると言えます。
永久 一方で話は厚生労働省だけに留まらず、例えば税制の問題で財務省とか、他の省庁でも同時に検討すべき課題がありますよね。
磯山 こういうきっかけというか、動機づけみたいなものがないと役所は動けないので、その意味ではこれからだと思います。役所の中の若手の改革派の人たちは、この懇談会をとても興味深くとらえてくれていて、やる気も感じられます。ただ、役所に丸投げでは動きにくいので、例えば規制改革会議や未来投資会議で議論が出てくる中で、民間のほうからも球を投げるという、そういう相乗効果の中で、具体的に制度が変わっていくのではないかと思います。これまで労働政策は、常に労使協調で決まっていくので、常に「接ぎ木」で少しずつしか前進しませんでした。大きく抜本的に見直すためには、まずビジョンを示し、それを目指して現状を変えていくというバックキャスティングという手法が必要です。