希少性を生かした「稼ぎ方」から考える

金丸恭文(フューチャー株式会社代表取締役会長兼社長/グループCEO)×磯山友幸(経済ジャーナリスト)×永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研代表)

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6、働き方の改革は社会全体の大きな枠組みの中で議論すべし
 
永久 「働き方改革担当大臣」というポストできましたが、お二人は具体的に何を期待されますか?
 
磯山 厚労省はやはり今までずっとやってきた労働政策の枠組みからなかなか離れられないので、違うところに司令塔をもう一つ置くというのは、新しいことをやる方法としては正しいと思います。今までの労働政策の枠組みを超えた考え方や政策決定プロセスが必要だということです。
 
永久 具体的にはどういうことですか?
 
磯山 厚生労働省の場合、労働政策の中に労働政策審議会というのがあって、労働側10人、使用者側10人、公益委員10人の合意で決めるという約束ごとがあるので、合意できないような話はできないんですね。つまり、厚労省の外側に改革の司令塔というかエンジンがなければ、議論が進まないんです。もちろん、塩崎厚労大臣は一所懸命改革を進めようと努力されていますが、厚労省の中だけでは、今までの延長線上でしか議論できないのではないかと思います。
 
永久 延長線上を越えた議論とは、具体的にはどのようなものでしょう。報告書に書ききれなかったことなどもあるのではないですか?
 
磯山 結構あります。なかでも重要なのは、労働基準法はもともと、製造業の工場法というのが前提になっているので、それとは違う体系の働き方の法律みたいなものをつくってしまうほうが早いのではないか、ということです。こうした発想が必要だと思うのですが、なかなか厚労省には受け入れられませんね。
 
金丸 サービスとかソフトウェアなどを提供するビジネスモデルで稼いできた人が増えているので、今の労働法制はすでに合っていませんよね。技術革新がさらに進むと、企業のあり方もどんどん変わるので、労働法制も常にそれにふさわしい形に変えていかなければなりません。一人ひとりの家庭の状況や置かれているステージは変わるので、個別の雇用契約を結べばいいのではないかということになり、そうなると、民法がベースになるのではないかという問題提起をしています。
 もう一つ問題提起したいのは、「働き方」という言葉を使っているけれども、最初から職場があるというわけではないということ。別の言い方をすると、働く場所は稼がなければできないわけです。「働き方」というのは受け身的な言い方で、むしろ収入を得る方法、つまり「稼ぎ方」を変えていくという観点から法律なども検討していく必要があると思います。経済やマーケットと働き方はコインの裏表というか、社会の活力の両輪です。片方だけを考えていてはいけません。
 
磯山 そうなんです。アベノミクスで今言ってることというのは、「稼ぐ力を取り戻す」ということなんです。コーポレートガバナンスの改革もやっていて、その延長線上に働き方改革があると思うんですね。働き方の改革はそういう大きな収益性改善の話の一部であるととらえる必要があります。
 
金丸 それが、今はスタンドアローンで独立しているような印象ですよね。
 
磯山 結びついているはずなのに、どうしても労働者保護的な政策のほうに引っ張られている感じがします。あまり引っ張られ過ぎると、逆の方向へ行っちゃって、下手をすると全員公務員化みたいな、ギリシャのようなことになってしまう恐れもありますね。
 
永久 そうしないためには、セーフティーネットみたいなものをきっちりつくって、それで働き方の改革を進めるということをしないと、進まないと思うんですよね。
 
磯山 そうなんです。まずは労働者保護的なセーフティーネットの構築を先にした上で、次はそういう、金銭解雇だったり、自由な働き方、自立した働き方ができるような法整備をしていかなければなりません。 
 
永久 今日の話をまとめると、「働き方の改革」は、国と地方の関係、経済、社会保障、教育のあり方といった大きな枠組みの中でとらえながら検討していかなければいけないということですね。今日はどうもありがとうございました。
 

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