「分子の連携」を進め、稼ぐ力を高めよ

伊藤達也(地方創生大臣補佐官・衆議院議員)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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4.地方創生の司令塔としての日本版DMO
 
荒田 地方創生の司令塔をつくるという意味では、観光DMOは典型的な取り組みではないかと思います。現状をみると、瀬戸内7県のように県を超えた広域的な取り組みから、先行モデルといわれる長崎県五島列島の小値賀(おぢか)町のような島ぐるみの手作り感溢れるものまで、かなりスケールが異なります。地域でDMOを立ち上げようとした時に、何が重要なのでしょうか。
 
伊藤 なぜDMOが必要かということですが、これは、なぜ観光協会では課題があるのかということと裏表の問題です。
 訪日外国人観光客は急速に拡大しています。2014年をみても1300万人、2015年は1900万人を突破する勢いです。これに関わる観光消費額は2兆円を超えます。しかし、「日本の魅力はこの程度でしょうか」と私は思うのです。同じ島国のイギリスは4000万人を超えています。日本の潜在力を考えれば、日本も4000万人くらいは受け入れる力があるのではないでしょうか。かりに1人平均25万円の消費をしてもらうことができれば10兆円です。数の拡大だけではなく観光消費の拡大につなげることが重要です。
 なぜそれができなかったのか、それは欧米の観光大国と比較して観光戦略を推進する司令塔がなかったからです。司令塔がどういう機能を発揮しているかというと、マーケティング、マネジメント、人材育成・確保、合意形成、財源確保などです。現状の観光協会の多くは、これらの機能を全て果たしているとはいえません。そうだとすれば、日本版のDMOを立ち上げ、観光協会とも役割分担し、あるいは広域的に連携して、地域資源を総動員した観光地域経営を実行できる主体をつくっていくべきです。
 
荒田 観光は自治体の垣根を超えて広域連携をしやすい分野といわれてきたと思います。しかし、パンフレットやポスターを一緒に作成するという次元の取り組みにとどまっている場合が多く、司令塔と呼ぶにふさわしい動きにどうしたら踏み込んでいけるかが問われていると思います。
 そうした中で私が注目しているのは、鳥取・島根両県にまたがる米子・境港・松江・出雲・安来の5市で構成する「中海・宍道湖・大山圏域市長会」です。人口66万人の同圏域は、鳥取・島根両県の人口の約半分を占めています。地方創生が始まるよりも前に、5市による観光をはじめとした圏域振興ビジョンをまとめており、これをもとに圏域版の総合戦略を策定しました。実行段階でも、各市に交付された交付金を市長会にまとめて圏域事業は市長会で実施する方針だそうです。そのために事務局機能も強化すると聞きました。
 
伊藤 そうした取り組みは高く評価したいですね。観光分野にしても、産業分野にしても、個々の自治体では政策を実施するのに狭すぎます。広域的な取り組みが必要です。ある地域に素晴らしい観光資源があったとしても、独自に頑張るだけでは限界があります。長く滞在して連泊してもらうためには、広域的に推進していくことが極めて重要です。これは産業政策でも同様だと思います。また、人材にも限りがありますから、人的資源を共有する意味でも連携が欠かせません。
 
荒田 観光は利害が一致しやすいので取り組み事例も比較的多いのだと思いますが、企業誘致などでは奪い合いの側面がありますから、連携する場合の合意形成は一筋縄ではいきません。究極的には司令塔の意思決定の主体を一元化することが求められると思います。

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