「分子の連携」を進め、稼ぐ力を高めよ

伊藤達也(地方創生大臣補佐官・衆議院議員)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

 全国の地方自治体は、いま「地方創生」をキーワードに動いている。
 出生率がこのまま回復せず、東京圏への人口流入が続けば「2040年にはわが国の市区町村の約半数に消滅可能性がある」とする従来よりも厳しい人口推計が発表され、国の危機意識に火をつけた。政府は2014年末に「まち・ひと・しごと創生法」を定め、2060年に総人口1億人を維持するための「長期ビジョン」と向こう5年間の「総合戦略」を取りまとめた。これに基づき、全国の都道府県と市区町村が、地方版の「人口ビジョン」と「総合戦略」を2015年度中に策定することが努力義務とされた。
 10月までに、全国の4割強の自治体が策定を終え、残る自治体の大半も2016年3月までには完了する見込みである。この先、地方創生は戦略の策定段階から施策の実行段階に入る。政府が定めた「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」では、地方創生の「深化」を求めている。地方自治体が地方創生を深化させ、具体的な成果に結びつけるために何が必要なのか。
 一方で、安倍政権は「一億総活躍」という新たな政策目標を掲げた。はたして地方創生と一億総活躍はいかなる関係で進んでいくのであろうか。石破茂地方創生担当大臣のもとで大臣補佐官を務める伊藤達也・衆議院議員と話し合った。

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伊藤達也氏(地方創生大臣補佐官・衆議院議員)

1.新しい動きもあるが、取り組みにはバラツキも
 
荒田 地方創生が安倍政権の重要政策になって1年半あまりが過ぎました。ここまでの取り組みをどのように評価しますか。
 
伊藤 いままで行われてきた地域活性化や地域振興の取り組みと何が違うのかというと、それは「危機感」です。人口減少によって、25年後の地域や日本の姿が大きく変わる。これは大きな社会問題です。半分近い自治体が消滅するかもしれないわけですから。
 危機感を共有するということが、田中内閣の日本列島改造(1972年)、大平内閣の田園都市構想(1980年)、竹下内閣のふるさと創生(1988年)などと比べた時の大きな違いです。また、国が地域活性化の大きな方針を決めて、そのためのモデル事業を都道府県と市町村を通じて行うというのが、お決まりのやり方だったわけですが、今回はそこも違います。
 主役である地域の方々の創意工夫を、国がしっかり応援するというアプローチで地方創生を進めようとしています。すでに地方ではさまざまな取り組みが行われています。それらを地方創生の文脈の中で活かしていくために、補正予算で先行型交付金を設けました。この交付対象に採択された事業をみてみると、新しい動きがでてきていることがわかります。
 たとえば、イノベーションの視点からは、長野県の飯田市を中心に14市町村が協力して、さらに信州大学ともスクラムを組んで航空機産業の開発拠点としての高度化に取り組むという事業があります。
 
荒田 この地域には、試験飛行でいちやく注目を集めた国産旅客機MRJに部品供給している企業もありますね。
 
伊藤 また、移住というテーマでは、大阪府の泉佐野市が大阪周辺の無業の若者で就農に関心を持つ人を集めて農業や田舎暮らしの研修をした後に、担い手が不足する青森県弘前市のリンゴ農家に場所を移して実地研修を行うという、都市と地方のいわば異業種の課題を連携させて地方創生につなげようという取り組みもでてきました。
 さらに観光分野では、瀬戸内の7県が協力してブランド力を上げていくために、観光政策の司令塔として日本版DMO(Destination Management Organization)づくりに取り組む事業もスタートしたところです。
 
荒田 意欲的な事業がある一方で、従来と変わり映えのしないものもあるような・・。
 
伊藤 交付金が不採択となった事業をみてみると、事業の目的や狙いが不明確であったり、課題が十分に把握できていない例が目につきました。中には、東京のコンサル会社に丸投げしてしまったと思われるものもありました。自治体の取り組みについては、バラツキが出てきたというのが正直なところです。
 先行するところは、国としてどんどん後押ししたいと考えています。遅れているところには底上げをして、全体として地方創生を前に進めていこうというのが現段階ではないかと思います。地方創生には息の長い取り組みが必要です。地域や日本の構造を変えていくという中長期の問題意識が大切です。
 
荒田 9月に行われた「地方創生RESASフォーラム2015」で石破大臣の講演を聞いたのですが、人口減少を「静かな有事」という言葉で危機感を表現していたのが印象に残っています。地方創生は危機感を共有することが出発点だと思うのですが、これが自治体側にくまなく浸透しているかは疑わしいように感じます。「困ったら国がなんとかしてくれる」という意識が払拭しきれていないことがバラツキにつながっていると思います。自治体と接して温度差を感じることはありますか。
 
伊藤 一定のバラツキはあるなという感は否めません。人口減少という問題を、実際に自分たちの地域に落として認識できているかどうかの違いだと思います。今回、地域の現状と未来を「見える化」して共有できるように「地域経済分析システムRESAS(リーサス)」を開発しました。官民のビックデーターをインターネット上で公開しています。たとえば「人口マップ」は地域の将来人口を国民だれもが見ることができます。これを活用しながら、危機感や問題意識を活用してもらいたいと考えています。

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