「分子の連携」を進め、稼ぐ力を高めよ

伊藤達也(地方創生大臣補佐官・衆議院議員)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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荒田英知(PHP総研主席研究員)

2.地域の中小企業の潜在力を発揮させる
 
荒田 「基本方針2015」に盛られた「地方創生の深化」が今後のキーワードだと思うのですが、戦略の策定から施策の実行局面に入っていく中で、具体的な成功事例を積み重ねることが大事だと思うのですが、そのためには何が重要と考えますか。
 
伊藤 やはり「見える化」が大事です。先行的に取り組んでいる自治体の姿を、みんなで共有できるように全国の方々に発信していきたいと考えています。地方創生という言葉のもとで日本をつくり変えていくんだというムーブメントにしたいですね。
 
荒田 国の総合戦略では政策の4分野が示され、地方版もそれに沿って検討されていますが、結局のところ1番目の「地方における安定した雇用を創出する」という、稼ぐ力をつけることが他の施策を進める源泉になるかと思います。地域で多数を占める中小企業の役割をどのように考えますか。
 
伊藤 地方創生の目的の1つである、日本の成長力を確保するという視点からは、地域経済に大きく貢献して貰わないといけません。なぜなら、GDPの7割、雇用の8割が国内産業から生み出されているからです。国内産業の成長力が回復しない限り、日本全体の成長はできないわけです。一方で、地域経済を巡る環境は大きく変化しており、毎年10万社の中小企業が消滅しています。今後はそれがさらに加速するかも知れません。
 大きな環境変化とは人手不足です。いままで、地域の中小企業は良い意味で雇用を守ってきたのです。それが、地域の現場では「人がいない」状況です。特に技術を持った方々が高齢化して技術の伝承ができないだけでなく、地域経済を支える人がいなくなるという事態が生じています。
 こうした中で地域経済が若い人たちにとっても魅力的な仕事を作り出すことができるのかが問われます。いままでは自分たちの大切な仕事を守ることが課題でした。その中に新しいチャレンジがなければ、若い方々が人生の自己実現と重ね合わせて、地域の中で仕事をしようという思いを持ちにくくなっています。だとすれば、中小企業が持っている潜在的な力を発揮する新たなチャレンジをすることが非常に重要です。
 
荒田 地方創生が緒に就いた2014年9月に、本欄で「地方創生はこうして進めよ」と題して、経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦氏の話を聞きました。冨山氏はグローバルに勝負するG型企業と、ローカルに根差したL型企業を区分して、地方創生を進めるにはL型企業の新陳代謝を進めて、特にサービス産業の生産性を上げることが重要としました。冨山氏の考えは地方創生にも大きな影響を与えたと思います。
 
伊藤 これから第4次産業革命が起こるといわれ、世界的なイノベーションの大波が日本の中小企業の現場にも押し寄せてくると考えなければなりません。これは捉えようによってはチャンスなのです。中小企業の中に眠っている力を掘り起こして、世界から注目されるような技術があるわけですから、それを発揮することによって中小企業の価値を高め、成長力の原動力としていかなければなりません。中小企業の経営革新を地方創生の中で応援していきたいと考えています。これを私たちはローカル・アベノミクスと呼んでいます。中小企業の成長戦略を地方創生の中で深化させ実行していきます。
 
荒田 中小企業についてお話しされる時には、必ずドイツの「隠れたチャンピオン企業(Hidden Champion)」について触れますが、日本とどこがどう違うのでしょうか。
 
伊藤 ヒドゥン・チャンピオンとは、ヨーロッパでシェア1位または世界シェア3位以内を占める企業を指します。BtoBの世界ですから有名とは限りません。実力のある中堅中小企業を育て、企業価値を高めていくことに戦略的に取り組んできた帰結です。そこには2つポイントがあって、1つはマーケットから評価される技術を用いた製品開発。もう1つは販路開拓です。この2つがなければ市場から評価されません。
 これまでドイツには1300社のヒドゥン・チャンピオンが誕生しています。日本にもグローバル・ニッチ・トップといわれる企業はありますが、せいぜい300社どまりです。成長の姿がここ十数年で大きく変わってしまったのです。現在、ドイツは「インダストリー4.0」というイノベーションに国をあげて取り組んでおり、中堅中小企業版の4.0までつくり込んでいるところです。
 世界で進む取り組みに負けないようなチャレンジを、ローカル・アベノミクスを通じて踏みこんでいきたいと思っています。こうした中堅中小企業が外貨を稼ぎ、それが起点になって地域経済の好循環をつくっていくのです。

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