「分子の連携」を進め、稼ぐ力を高めよ

伊藤達也(地方創生大臣補佐官・衆議院議員)×荒田英知(PHP総研主席研究員)

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3.「見える化」することで気づきと共有が進む
 
荒田 かつては日本の各地にもグローバル・ニッチ・トップ企業はたくさんあって、十数年前に「四国が誇る世界一・日本一企業」という年次レポートを見て、その数の多さに驚いたことを思い出したのですが、いまではレポート自体が発行されていないようです。エンドユーザーが気づかない間に、大きな地殻変動が起こっているのですね。
 地方創生には、中小企業の潜在力も含めて地域資源を総動員することが欠かせないと思います。石破大臣も「産・官・学・金(金融)・労(労働)・言(言論)」という表現で、多様な主体の参画を求めていますが、これがなかなか難しいということも経験則となっています。何か妙手はありますか。
 
伊藤 まず、総合戦略の策定プロセスで産官学金労言の総力戦で取り組んでもらうようにしました。くわえて、策定するだけでなく実行する責任もみんなで共有して進めて頂きたいということを繰り返しお願いしています。RESASという新たな武器を投入したのも、地域の現状や課題、強みと弱み、将来像などを「見える化」することで気づきと共有が進むと考えたからです。
 また、地域の総合力を発揮するために、官民の協働や地域間の連携を重視しました。新たな枠組みで地域の総合力を広域的に引き出していくことが重要です。もう1つは、地方創生を進める新たな主体づくりも重要です。観光などは典型的ですが、行政だけではできない取り組みも多いのです。マネジメントの主体づくりにも強い問題意識を持っています。
 さらに、経済や生活の圏域に基づいた取り組みも重要で、自治体の枠は生活圏や経済圏と必ずしも一致していませんから、圏域という単位も含めて複層的に進めていく必要があります。
 
荒田 地域の総動員体制という時に、産官学連携はこれまでもいわれてきたと思いますが、今回の地方創生では金融機関のコミットが強く意識されているように思われます。望ましい事例などは出てきているのでしょうか。
 
伊藤 「金」の取り組みはたいへん重要で、私自身、中小企業政策とともに金融行政にも関わってきましたから強い思いを持っています。これまで、中小企業を対象とした産業政策と金融面の政策とは必ずしも一致していなかったと思います。それを地方創生の中で一体的に運用できるように取り組みを進めていきたいと考えています。
 そこで地方版総合戦略に金融機関自らも参加して、特に地域金融機関は地域と一体ですから、その中で地域に密着した金融機能を発揮してもらいたいと考えています。これまでの地域活性化は、補助金の切れ目が事業の切れ目となってしまいがちでした。これを金融機関の目から見て改善してもらいたいのです。
 
荒田 ヒト・モノ・カネの「金」に関しては、財政資金から金融資金へのシフトが必要ということが頭ではわかっていながら、補助金頼みがやめられないという実態から抜け出せない場合が多いように思います。
 
伊藤 冒頭にお話した長野県の技術開発の拠点の高度化事業では、初期段階から地域の金融機関が参画していますし、瀬戸内の観光DMOにおいても金融機関が入っています。重要なことは事業の初期あるいはシーズの段階から、金融機関や投資家が入って、事業を育成していくことです。この点が従来の地域活性化で欠けていたのです。さらに、RESASをどう活用するかについて、金融機関がアドバイスする例も出てきていて、地域の人を巻き込んだワークショップなども行われます。こうした取り組みが見える化と気づき、そして新たな行動につなげる後押しになっていくのだと思います。

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