政策提言「新しい勤勉(KINBEN)宣言―幸せと活力ある未来をつくる働き方とは―」【2】

磯山友幸(経済ジャーナリスト)×小林庸平(三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング副主任研究員)×鈴木崇弘(PHP総研客員研究員)

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7.企業はどうすれば変わるのか
 
鈴木 最後に、新しい働き方という視点から、企業がどう変わるのか、どうすれば変われるのかについて話していきたいと思います。
 ではまず、私から1つだけ言わせてください。先日、ヒアリングにも関係する異業種女性営業活躍推進プロジェクトである「新世代エイジョカレッジ(エイジョ)」(注6)の第2期最終プレゼンに行ってきました。
これは、非常に面白い試みだと思っています。ワーク・ライフ・バランスや女性の活躍で比較的有名で、ダイバーシティも進んでいる7つの会社の女性営業職の人たちが、抱える問題を共同で議論をして、参加者が新たな気づきを得る場です。
 またその活動のプロセスや最終発表会に参加したアドバイザーの部長や役員の審査員がいるのですが、彼らは活動に関わることで他社のやり方や新しいアイデアに気付くのです。
このように、一企業が従来のようにフルセットで社内的に問題解決するスタイルではなく、他企業と共同作業や議論をすることで、社内のイノベーションや新しい企業活動が生まれる可能性があるので、エイジョは企業を変えていく一つのモデルを提示していると考えています。
 
小林 企業も自前で全て抱え込む時代ではないという気がします。オンデマンドで外から専門的な知見を調達して対応する形に変われば、働き方も変わる。そこでは企業は、今までよりも小さな単位となり、一人一人が企業みたいな感じに徐々になっていくのではないでしょうか。
 もう一点。あるTV番組で、冒険家の関野吉晴さんが「アマゾンには『お前いるか(存在しているか)』という挨拶をする先住民がいて、それは彼らにとってはより良くなることがありえないからだ」とおっしゃっていました。これを私なりに解釈すると、人間は変わらないことに安心するようにできている動物なのだと思います。変化は当然リスクを伴うので、「変わらない」方にバイアスを持つようにつくられている。しかし現在のように世の中の変化が早いと、「変わらない」方にバイアスを持つことは社会への適合を難しくするように思います。その意味で、新しい働き方は変わることなので、変化に対する恐怖心にどう対応するかが一つのポイントだと思います。
 私自身も、自ら変化をつくり、変化に対する恐怖心をコントロールしながら新しい生き方を実践していきたいと考えています。
 
磯山 商都大阪では、「もうかりまっか」や「ぼちぼちでんな」が挨拶です。変わらないことじゃなくて、いかにもうけるかというのが企業の行動パターンの根源にあります。
 だから、企業が変わるきっかけは、儲かるかどうか、このままでは滅びるかどうかです。女性がいない会社は儲かってないし、組織がいびつです。女性は、社長から不正を行うように言われても、仕方ないとしてやることはまずない。それに対して、上司から言われたとおりにするのは、男社会の文化です。今までは、成長する経済のパイを分け合っていたので、男社会ではなあなあでやる方がうまく回った。今後成長が鈍化する中で、生き残るためには戦わなきゃいけない。そのときに企業は、予定調和ではなく、多様性が組織にプラスに働くとなれば一気に変わると思います。
 現に日本社会の枠外のような人材が企業の人気を集めています。これからの企業は、従順な人は要らなくなっていて、企業を成長に導く人材を採りたいと考えている。「儲かりますか」の基準で行動していると思いますね。
 だから、働き方は一気に変わっていく。企業の方向がそちらに動けば、政治も役所も変わらざるを得ない。5年後、この提言で求めた事は実現しているのではないでしょうか。
 
鈴木 そういう今までの枠ではとらわれない人が本当に増えているのも事実ですよね。
 
磯山 世の中変わってきていると思います。
 
鈴木 これも月並みですが、グローバル社会の中で、相対的な変化の速度がやっぱり日本は遅いと感じるのも事実です。
 
磯山 それは、日本はこの20年間「変わろう」という意思を持っていなかったからではないでしょうか。それでも現実にはこれだけ変わってきたので、「変わる」という意思さえ明確になれば、世界トップレベルに一気に変わるでしょう。
 
鈴木 新しい日本が生まれてくるためにも、ぜひこの政策提言が活かされることを希望しつつ、お話を終わりにしたいと思います。
 
(注6)エイジョについては、記事「『エイジョ』から学ぶ、日本企業の可能性」参照。
 

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